『原子爆弾解体新書〜ハウ・トゥ・ディスマントル・アン・アトミック・ボム』(げんしばくだんかいたいしんしょ ハウ・トゥ・ディスマントル・アン・アトミック・ボム、How to Dismantle an Atomic Bomb)は、アイルランドのロックバンド、U2の11枚目のスタジオ・アルバム。2006年のグラミー賞において最優秀アルバム賞および最優秀ロック・アルバム賞を受賞した評価の高いアルバムである。
概要
タイトルはボーナストラックの「Fast Cars」の歌詞の一節から。Bombとは先年亡くなったボノの父親ボブ・ヒューソンのことである。
当初、クリス・トーマスをプロデューサーに迎えてセッションを行っていたが、満足するものが出来上がらず、スティーブ・リリーホワイト、ブライアン・イーノ、ダニエル・ラノワ、フラッド、ジャックナイフ・リー、ネリー・フーパーなどの一流プロデューサーを次から次に注ぎ込んでなんとか完成させた。
自ら先駆けとなったロックンロールリバイバル・ブームに乗っかったエッジのギターがギンギンに唸り、アダムとラリーのリズム隊がドタバタ忙しいロックアルバムで、当時ボノは「ファーストアルバムのつもりで作った」とか「The Whoの『Who's Next』を意識した」とか「BuzzcocksやSiouxsie and the BansheesやEcho & The BunnymenなどU2を作ったバンドを聴いていた」と発言しており、Black Rebel Motorcycle ClubやYeah Yeah Yeahsなど当世のバンドの名前にも言及していた。
アルバムのセールスは900万枚を超え、再びグラミー賞を多数受賞して商業的にも批評的にも大成功し、日本でもっとも売れたU2のアルバムとなった……が、ボノは「曲は最高なのに部分が全体を超えていない」という趣旨のことを述べ、音楽評論家のジョン・ウォーターズが「この20年もの間トップの座にあり、そこから滑り落ちまいとしているバンドによる、これといって特徴のないアルバム」という辛辣な評があったからもわかるとおり、いまいち煮えきらない点があったのも事実。この頃からボノの政治活動が本格化し、レコーディングを休みがちだったことも一因かもしれない。
なおアルバム製作中にフランスで本作のサンプルCDが盗まれ、ネット流出が心配される騒ぎが起こった。
シングル曲「ヴァーティゴ」、「オリジナル・オブ・ザ・スピーシーズ」は、iPodのテレビCM曲として知られる。
グラミー賞獲得歴
- 最優秀アルバム賞(2006年)
- 最優秀ロック・アルバム賞(2006年)
- 最優秀楽曲賞 - サムタイムズ・ユー・キャント・メイク・イット・オン・ユア・オウン(2006年)
- 最優秀ロックパフォーマンス・グループ部門 - ヴァーティゴ(2005年)
- 最優秀ロックパフォーマンス・グループ部門 - サムタイムズ・ユー・キャント・メイク・イット・オン・ユア・オウン(2006年)
- 最優秀ロックソング部門 - ヴァーティゴ(2005年)
- 最優秀ロックソング部門 - シティ・オブ・ブラインディング・ライツ(2006年)
- 最優秀短編ミュージックビデオ賞 - ヴァーティゴ(2005年)
収録曲
楽曲一覧
楽曲解説
- ミラクル・ドラッグ - Miracle Drug
- U2のメンバーの母校マウントテンプル・スクールの同窓生で、詩人・作家であるクリストファー・ノーランについての曲。彼は脳性麻痺をもって生まれたが、母親の愛情と献身的な介護によって、特製のコンピューターとキーボードで文字を打てるようになり、文才を発揮して、詩集や小説を著し、アイルランド最高の文学賞であるウィットブレッド賞を受賞した。2009年、異物を喉に詰まらせて、43歳の若さで亡くなった。
- 「With or Without You」と同じコード進行。「All That You Can't Leave Behind」のアウトテイク「Levitate」の一部が使われている。ボノとエッジの他、ラリーもコーラスに加わった「Numb」と並ぶ三人ヴォーカルの曲(でもラリーの声は聞こえない)。
- 2004年イグアナ(スペイン)年間ベストシングル第35位
- ラヴ・アンド・ピース・オア・エルス - Love and Peace or Else
- 「All That You Can't Leave Behind」のアウトテイク。
- ア・マン・アンド・ア・ウーマン - A Man and a Woman
- エンジニアがミキシングをしていたら、ボノがそれを気に入り、ベースギターを手に取って歌い始めて生まれた曲。エッジが弾いているアコースティック・ギターは別の曲から持ってきて、繋ぎ合わせたものである。ボノのヴォーカルにはThin Lizzyのフィル・ライノットの影響があるのだという。ボノは「夏のニューヨークでポーチに座っているようなサウンドだ。僕はThe Clashとマービン・ゲイを一つに繋ぎ合わせてみたかったんだ」と評している。曲のテーマは女性に対する忠誠とロマンスの再発見。ボノは野放図なセックスなど退屈な代物で、1人の女性を愛するほうがずっとセクシーだという考え方の持ち主である。
- ツアーでは1度も演奏されたことがないが、ビル・クリントンの慈善事業と65歳の誕生日を祝うコンサートで、ボノとエッジによってアコギで演奏されたことがある。
- クラムズ・フロム・ユア・テーブル - Crums from Your Table
- フランスの別荘で、ボノとエッジが酔っ払った状態で書いた曲で、最貧国が先進国に「テーブルの上のパン(Crumbs from Your Table)」、つまり経済援助をしてもらうために、平身低頭の姿勢でいなければならないことに怒っている。Vertigoツアーで7回演奏された。
- ワン・ステップ・クローサー - One Step Closer
- 「All That You Can't Leave Behind」のアウトテイクで、丁度、近くに来ていたラノワにペダルスチールに加わってもらって、ボノとエッジはギターという編成でセッションして作った曲。ボノが父親のボブのために作った曲で、One Step Closerとは、ボノが「(瀕死の)父親は神を信じていると思うかい?」とノエル・ギャラガーに尋ねると、彼は「(神というものを理解できるところへ)一歩近づいているじゃないか」と答えたことが由来。ライナーノーツにはノエル・ギャラガーへの感謝の念が記されている。ボノは「The Velvet Undergroundから始まって、カントリーソングのようになった」と述べているが、エッジはグラム・パーソンズのようだと述べている。ライブで演奏されたことは1度もない。
- ヤハウェ - Yahweh
- レコーディングの前からエッジが構想を温めていた曲で、最初のテイクでボノがヴォーカルパートを付け加えたことにより、ドラマティックに発展。メンバーによれば、「書いた」のではなく「書かれた」曲の一つだそうだ。クリス・トーマスが去った後、、ラノワとリリーホワイトがプロデュースを担当し、ラノワなどはマンドリンまで採り入れようとしたが、完成作はトーマスプロデュース時のものとほとんど変わらないのだという。
- ファスト・カーズ - Fast Cars (英国盤・日本盤ボーナストラック)
評価
イヤーオブ
- 2004年ローリングストーン年間ベストアルバム第7位
- 2004年ローリングストーン読者が選ぶ年間ベストアルバム第1位
- 2004年アンカット年間ベストアルバム第35位
- 2004年スピン年間ベストアルバム第29位
- 2004年NME年間ベストアルバム50第18位
- 2004年Qマガジン年間ベストアルバム第4位
- 2004年Mojoの読者が選ぶ年間ベストアルバム第9位
- 2004年ワード年間ベストアルバム第9位
- 2004年Humo(フランス)年間ベストアルバム第6位
- 2004年イグアナ(スペイン)年間ベストアルバム第29位
- 2004年スヌーザー年間ベストアルバム第7位
- 2004年IFPI・2004年ベストセラーアルバム第4位
- 2006年グラミー賞最優秀アルバム賞
- 2006年グラミー賞最優秀ロック・アルバム賞
- 2006年メテオラ・ミュージック・アワード最優秀アイリッシュアルバム
オールタイム
- 2006年BBCレディオ2が選ぶオールタイムベストアルバム第63位
- 2010年ローリングストーンが選ぶ00年代ベストアルバム100/ 68位
- 2010年Qマガジンが選ぶ21世紀のアーチスト&アルバム第33位
- 2011年Qマガジンが選ぶ人生のアルバム250第95位
脚注
関連項目
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