![サンドマン (ヴァーティゴ) サンドマン (ヴァーティゴ)](/modules/owlapps_apps/img/nopic.jpg)
『サンドマン』(原題: The Sandman)は、DCコミックスから刊行されたニール・ゲイマン原作のコミックブックシリーズ(1989–1996年、全75号)。コミックの読者層以外にもファンを持つカルト的なヒット作となり、新しい刊行形態であったグラフィックノベルの普及の一翼を担った。批評家からの評価も高く、1991年にはシリーズ中の1号が世界幻想文学大賞最優秀短編賞を受賞した。
創刊時のペンシラー(鉛筆画の下絵)はサム・キースが、インカー(ペン入れ)はマイク・ドリンゲンバーグが担当したが、後に多くの作画家が制作に参加した。シリーズを通じてレタリングはトッド・クライン、表紙画はデイヴ・マッキーンによる。オリジナルシリーズは月刊コミックブックとして1989年から1996年にかけて全75号が発行され、第47号からはDC社の新インプリントヴァーティゴに移籍して主力タイトルとなった。後に全10巻のペーパーバック単行本、箱入りハードカバー、注釈入り版などが販売されているほか、完結後20年以上にわたってスピンオフ作品の刊行が続いている。映像化は早くから何度も企画されたが難航し、2022年に初めてNetflixによるドラマシリーズが配信された。日本では1990年代に一部の巻が翻訳され、2023年に新訳での再刊が始まった。
永遠不滅の存在であった主人公ドリームは人間の虜囚となり、それによって自らの中に生じた変化と向き合う中で、生き方を変えるか死かの選択を迫られる。本作は初め典型的なダーク・ホラーとして始まったが、後に古今の神話の要素を取り入れて精緻に構成されたファンタジーとなり、最終的にドリームを悲劇の主人公として結末を迎える。ドリーム(夢)はエンドレス(終わりなき者)と呼ばれる7体の兄弟姉妹の一人で、ほかにはデス(死)、デザイア(欲望)などがいる。これら形而上的概念が擬人化されたキャラクターのほか、神話や歴史上の人物がDCコミックスの設定世界で物語を展開する。
本作は批評家から高く評価され、『マウス』『ウォッチメン』『バットマン: ダークナイト・リターンズ』と並んで、一般書と同列に『ニューヨーク・タイムズ』のベストセラーリストに載せられたわずかなグラフィックノベル(長編コミック本)の一つとなった。『エンターテインメント・ウィークリー』誌が「1983–2008年の書籍100選」リストに挙げたグラフィックノベル5冊に入り、第46位を占めた。コミック作品として初めて世界幻想文学大賞を受賞したことは話題を呼んだ。ノーマン・メイラーは本作を「知識人のためのコミック・ストリップ」と呼んだ。本作で筆名を上げた作者ニール・ゲイマンは小説や映像作品の脚本などにも活躍の場を広げた。
主人公ドリームは夢が具現化した存在で、モルフェウスなど多くの異名を持つ。ドリームはエンドレスと呼ばれる7体の兄弟姉妹の一人で、上に兄デスティニーと姉デスがおり、下には弟デストラクション、弟/妹デザイア、妹デスペア、妹デリリウムがいる。彼らは概念や現象が人格を取ったもので、宇宙全体にわたってその現象を管理する義務を負っており、自らの支配する領域では強大な力を持つ。神と同一視されることもあるが、人間が信仰する神々よりも早く、世界そのものと同じ時期に生まれたとされる。
物語の冒頭で、ドリームは魔術教団によって70年にわたり囚われの身となった。刊行時の現代に至って脱出を果たしたドリームは幽閉者に復讐し、荒れ果てた夢の王国の再建に取り掛かる。かつてのドリームは古代神のような厳格さを備え、自他の感情に関心を持たず、自尊心のため冷酷に振る舞うこともあったが、長年の幽閉から得た教訓により変わり始める。しかし、彼のように数10億年にわたって存在してきた者にとって、新しい生き方を身につけるのはとてつもない難事であった。ドリームはかつての恋人を地獄に落としたことや、エンドレスの存在意義に疑問を抱いて出奔した弟を傍観したことなど、過去に犯した過ちを償おうとする。しかしその中で、長年にわたって背を向けてきた息子オルフェウスを殺すことを余儀なくされる。打ちのめされたドリームは、彼を罰しようとする復讐の女神エリーニュスに自身の命を差し出す。そして、彼が後継者に選んだ、より慈しみ深い存在がドリームの新しい人格となる。
物語は主にドリームが支配する夢の王国ドリーミングおよび「目覚めた者の世界」を舞台として展開され、折に触れて地獄、妖精国、アスガルド、またほかのエンドレスの領域が描かれる。本作は公式にDCユニバース(DCコミックス社のシェアード・ワールド)内の物語とされているが、その主流であるスーパーヒーロー・キャラクターは初期の数巻を除けばほとんど登場しない。メインストーリーは現代の出来事として書かれているが、歴史上の人物や出来事を扱った短編エピソードも数多い。短編 Men of Good Fortune はその一例で、数世紀にわたるイングランドの変遷が描かれており、ウィリアム・シェイクスピアなどが登場する。
第3、6、8巻は1号完結の短編を集めたものである。それ以外の巻にはそれぞれ一つの長編ストーリーが収録されているが、途中でテーマを要約・補足するための短編が挿入される構成が多い。
第1–7号は More Than Rubies という長編ストーリーを構成している。各号はそれぞれ趣向の異なるホラーストーリーとして書かれており、第1号 Sleep of the Just は古典的なイングリッシュ・ホラー、第2号 Imperfect Hosts はDC社やECコミックスのホラーシリーズの伝統に沿ったもの、第4号 A Hope in Hell はパルプ雑誌『アンノウン』風の物語である。第6号 24 Hours は短編ホラーストーリーとして評価が高く、DCコミックスによって自社のホラーコミックのオールタイムベスト1に挙げられている。作者ゲイマンはこの号をシリーズ中のホラー要素の極北と位置づけており、平凡な人々が理不尽な破滅を迎える様子を描くことで、それ以降の号で予定調和的な展開を予想させないようにする意図があったと語っている。
第8号 The Sound of Her Wings はエピローグとなる独立した物語で、エンドレスの兄弟姉妹の二人目であるデスが登場した。この号は作品全体の転機と考えられており、これ以降、物語の焦点はドリーム個人に移っていく。担当編集者カレン・バーガーによれば、この号でシリーズが様式的な冒険物から飛躍したというだけでなく、技巧的な作家であったゲイマンが初めてエモーショナルな核を表現したという。ティム・カラハンは本作がアラン・ムーアの強い影響から脱したのがこの号だと述べており、ゲイマン自身もこの号で初めて作家としてのオリジナリティが形になったと述べている。
シリーズのペンシラーはこの巻の半ばでサム・キースからマイク・ドリンゲンバーグに交代した。
収録号の大部分は長編 The Doll's House を構成している。プロローグとなる第9号 Tales in the Sand、および第13号 Men of Good Fortune は過去の時代を舞台とした短編である。中世イングランドを舞台とする第13号の作画は、歴史ファンであるマイケル・ズリによって行われた。
正ペンシラーのドリンゲンバーグが締め切りを破りがちだったため、第12号はクリス・バチャロが代役を務めた。バチャロはこれがメジャーデビュー作であり、後にデスのスピンオフシリーズを描いて脚光を浴びた。
独立した短編4篇からなる。第1話 Calliope にはホラーコミックの作画で名高いケリー・ジョーンズが「ユニバーサル・ホラー風」のアートを提供した。第2話 A Dream of a Thousand Cats は猫が主役となる物語で、引き続きジョーンズが作画を担当した。第3話 A Midsummer Night's Dream(『夏の夜の夢』)はドリームがウィリアム・シェイクスピアに表題の戯曲を書かせたというストーリーで、シリーズ最高傑作と呼ばれることもあり、1991年に世界幻想文学大賞(短編賞)を受賞した。作画を手掛けたチャールズ・ヴェスはファンタジーやおとぎ話のジャンルを得意としており、『夏の夜の夢』の戯曲本に挿絵を描いたこともあった。第4話 Façade はシリーズの中でもやや例外的なエピソードで、通常のDCユニバースに所属するヒーローキャラクターにスポットが当てられている。ペンシラーはオリジナル作品『ディスタント・ソイル』で知られるコリーン・ドランである。この巻は収録号が少ないため、第1話 Calliope のスクリプトも併せて収録された。
タイトルはジョン・キーツの詩「秋に寄せて (To Autumn)」の書き出しの一句である。この巻は2004年にアングレーム国際漫画祭で最優秀シナリオ賞を受賞した。
実在の神話が全面的に使われた長編 Season of Mists の前後にプロローグとエピローグが置かれ、幕間劇としてイギリスのボーディングスクールを舞台にした短編が挟まれている。本シリーズはホラーとして始まったが、この巻の前後からファンタジー色が強くなっていき、主人公ドリームのキャラクターも複雑さを増して、ストーリー的にも絶頂期を迎えたと評されている。
メインストーリーの作画はケリー・ジョーンズが、プロローグとエピローグはドリンゲンバーグが、幕間劇はマット・ワグナーが担当した。「神々や悪魔や天使、混沌の王女や謎の段ボール箱」が入り乱れる奔放なストーリーはジョーンズの画風に合わせて構想されたものである。現代世界における神話のテーマは、後に小説『アメリカン・ゴッズ』へと発展した。
内容は単一の長編。登場人物の多くが女性で、ジェンダーと社会的な疎外、また成長とアイデンティティの確立のテーマが扱われている。当時のコミックとしては珍しくトランスジェンダーや同性愛者のキャラクターが使われており、拒否反応を示すファンもいた。ほかの主流メディアに視野を広げても、まだこれらのテーマが一般化していない時代だった。それらのマイノリティの描写に関しては批判もある(#批判)。主人公のドリームがほとんど登場しないこともあり、この巻はシリーズで最も不人気だったという。ゲイマンは「ファンダムとは何かということと、なぜ人がファンタジーを求めるか」についての物語であり、ファンの神経を逆なでする面があると述べている。
作画を主に担当したショーン・マクマナスは、アラン・ムーア原作の『スワンプシング』誌で『ポゴ』のパロディを描き、童話的なファンタジーとリアリスティックなホラーを両立させる手腕を見せたことで起用された。
1話完結型の短編集で、収録作の一部は後の展開の伏線となっている。特に The Song of Orpheus はメインストーリーの核心を占めている。同作は初め単発号『サンドマン・スペシャル』で発表された。短編のうち4編は Distant Mirrors の名がつけられた連作で、いずれも「王であることの意味」をテーマとしており、題名は月の名から取られている。また3編の短編は Convergence の名でまとめられており、いずれも異なる時代、異なる文化の登場人物が互いに物語を語る形を取っている。劇中劇のテーマは第8巻で再び扱われる。そのほか、宣伝用の特別誌『ヴァーティゴ・プレビュー』第1号に収録された掌編 Fear of Falling が収録されている。
単行本の題辞は17世紀の書物『名士小伝 (Brief Lives)』からの引用である。シリーズのターニングポイントとなる長編で、物語はここから結末に向けて加速し始め、序盤のエピソードをつなげる大きな構図が明らかになっていく。
この巻のペンシラーに起用されたジル・トンプソンは『ワンダーウーマン』を描いていた若手アーティストで、現実的で生き生きとしたキャラクター造形は高く評価されている。デリリウムの独特な仕草や表情はトンプソン自身が投影されたものである。幼児のようにとりとめのないおしゃべりを続けるデリリウムと、謹厳で無表情なドリームの旅はロード・コメディに例えられる。
独立した短編が主体だが、メインストーリーの結末が近づいていることを予兆するシーンが含まれている。それらの物語は旅籠に集まった登場人物たちが酒の席で語り合ったもので、チョーサーの『カンタベリー物語』と似た枠物語の形式になっている。そのため各話は語りと絵の両面で独自のスタイルを持っており、旅籠を舞台とした短いシークエンスが間をつないでいる。旅籠のシーンの作画は英国のベテラン作画家ブライアン・タルボットによる。
冒頭部は主人公ブラント・タッカーの一人称で語られる。彼は自動車旅行の途中で事故に遭い、「世界の果て、滞在無料」と書かれた奇妙な旅籠に入る。旅籠は一種の避難所であり、何らかの重大な出来事の余波として「リアリティの嵐」が吹き荒れる間、いくつもの世界を渡る旅人たちが身を休めるための施設だった。物語を語り合っていた滞在者たちはやがて、夜空に屹立する巨人たちの葬列を見る。最後尾のデスは悲し気な視線を送る。その後タッカーは自分の世界に帰り、バーの主人にこの物語を語る。
この巻でシリーズは悲劇的なカタストロフィを迎える。初めにプロローグとして、プロモーション用のアンソロジー誌 Vertigo Jam 第1号に掲載された10ページの掌編 The Castle でドリーミングの主な住人が紹介される。残りを占める長編「カインドリー・ワンズ」は、コミックブック13号にわたるシリーズ最大のボリュームを持ち、構成は複雑である。ドリームを宿命の主人公の位置に置いたギリシア悲劇として書かれ、三相一体の魔女がコロスの役を務める。過去の巻で展開されたストーリーが引き継がれており、人間界に解き放たれたトリックスターであるロキとロビン・グッドフェローが物語の発端を作る。ドリームを愛する妖精ヌアラ、夫と息子の復讐を求めるリタ・ホール、恋人関係にあったが破局した魔女テサリーらはそれぞれ乙女・母・老婆の役割に擬せられ、それぞれ三人の魔女/復讐の女神エリーニュスに加担してドリームに破滅をもたらす。そのほかにも過去の各エピソードを代表するキャラクターがサブプロットを展開する。
ほかの巻のようにリアリスティックではなく、表現主義風の様式化されたタッチで描かれている。メインの作画家マーク・ヘンペルは、アメリカン・コミックで主流のスーパーヒーロー作品とは作風が異なっており、DC社のオルタナティヴ系インプリントであるピラニア・プレスで精神病院の収容者を主人公にした作品『グレゴリー』を書いていた。
表題の "wake" には「目覚める」のほか「通夜」や「航跡」の意味があり、第70–72号のタイトル中でそれぞれ異なる意味で使われている。これらの号ではモルフェウスと呼ばれていたドリームの通夜と葬儀が描かれ、最後に "You"(読者)が目覚めることで物語の本編が完結する。続く第73号は通夜のエピローグであるとともに、第2巻以来モルフェウスと友情を育んできたホブ・ガドリングの物語の締めくくりにもなっている。残る第74, 75号はどちらも作中の過去を舞台にした短編である。
第70–73号ではペン入れは行われず、マイケル・ズリによる鉛筆画のみで印刷された。ズリの精細な絵が用いられたのは前巻のミニマリズムと対照させる意図があった。逆に第74号にはペンシラーがおらず、インクだけで描かれた。アーティストのジョン・J・ミュースは原稿に直接色紙や布地を貼り付けて彩色を行った。
27歳の新進コミックライター(原作者)だったニール・ゲイマンが1988年にDCコミックスに対して『サンドマン』(1974–76年)のリメイクを提案し、その結果生まれたのが本作である。当時のDC社は1985年の『クライシス・オン・インフィニット・アース』で刊行物全ての設定をリセットした直後で、旧作を現代風な物語として語り直すことに力を入れており、スーパーマンを始めとする多くのキャラクターが新世代の作家によって再創造された。『サンドマン』旧シリーズは眠りの妖精(ザントマン)が主人公のヒーロー物で、ジャック・カービーなどにより7号が刊行されたが、人気は得られなかった。
もともとゲイマンは、DCデビュー作として企画されていたリメイク版『ブラック・オーキッド』(1988年)にカービー版のサンドマンを登場させるつもりだったが、先に他誌で使われていたため実現しなかった。しかしゲイマンは、夢の住人であるサンドマンには真の形がなく、見る者によって姿を変えるというアイディアに魅了されており、それに基づいた新シリーズを構想し始め、DCの編集者カレン・バーガーに伝えた。
芸術志向の作品だった『ブラック・オーキッド』をDC社は高く評価し、上質な装丁で刊行することにした。しかし主人公キャラクターの知名度が低く、制作者も全く無名であることは不安材料だった。そこでDC社は、『ブラック・オーキッド』を出す前に、ゲイマンを別の作品でアメリカ読者にお目見えさせようとした。ゲイマンはカレン・バーガーから新しい月刊シリーズを書くよう求められ、候補の一つとして『サンドマン』新シリーズを提案された。ゲイマンはその際の会話を以下のように述べている。
ゲイマンはありがちなホラーやヒーロー物を書くつもりはなく、関心の赴くままどのようにでも物語を展開させられるような主人公を選んだ。神話のモルフェウスをヒントにして作り出された新たなサンドマン(作中ではドリームもしくはモルフェウスと呼ばれる)は「夢の王」「物語の君主」とされる超常的な存在であった。ゲイマンはドリームがこれまでDCユニバースに現れなかった理由を「囚われていたから」と決め、以下のような初期イメージを元にキャラクターを発展させた。
ドリームの服装は、日本のデザインに関する本で見かけた着物の柄と、ゲイマン自身が好む黒一色のファッションを組み合わせたものである。
ゲイマンは最初の長編ストーリーの梗概を作成し、友人の画家デイヴ・マッキーンとレイ・ボールチに渡してキャラクタースケッチを描かせ、DC社のバーガーやディック・ジョルダノから認可を得た。無名の作者によるホラーシリーズを手掛けたがる作画家は少なかったためペンシラーの選定は難航したが、画風が独特でイラストレーション風の絵が描ける新人としてサム・キースが選ばれた。インカーとしてはマイク・ドリンゲンバーグが、カラーリストとしてはロビー・ブッシュが契約を結んだ。レタラーのトッド・クライン、カバーアーティストのデイヴ・マッキーンらはシリーズを通して貢献を続けた。
『サンドマン』第1号は1988年11月29日に発売された(発行日表示1989年1月)。
ゲイマンは初期の数号について、彼自身も作画スタッフも経験不足だったため「ぎこちない出来」になったと述べた。ペンシラーを務めていたサム・キースは、特に自身の作画の評価が低かったと語っている。キースによれば、漫画的な馬鹿馬鹿しさを好む作風が周りと噛み合っておらず、単純に画力も不足していた。第3号の時点で辞意を明らかにしたキースを引き留めるため、ゲイマンは第4号にキースの長所が活きるようなシーンを設けた。その一つは無数の悪魔が地獄の地平を埋め尽くしている見開きページだった。手間のかかる構図の作画をキースは楽しみ、ペンシラーの職域を越えてペン入れまで行った。しかし、結局は次の号でシリーズを離れ、「ビートルズに入ってしまったジミ・ヘンドリックスみたいな気分だ」という言葉を残した。
第6号からは、当初インカーだったドリンゲンバーグがペンシラーに転向し、後任のインカーにはマルコム・ジョーンズIII世が迎えられた。完璧主義のドリンゲンバーグは仕事が遅かったため二つ目の長編ストーリーの完結(第16号)とともにレギュラーを外れ、以降はそれぞれのストーリーに合わせて作画家が選ばれるようになった。しかし、憂愁さと色気を感じさせ、リアリスティックでモダンな落ち着きを持つドリンゲンバーグの画風はシリーズのヴィジュアル面を方向付けた。キャラクターがホラーコミック調にディフォルメされていたサム・キースと比べて、新しい絵柄はゲイマンのストーリーが持つ密やかなエロティシズムを際立たせていた。ドリンゲンバーグが第8号(1989年8月)において、ドリームの姉である死の化身デスをデザインしたことは特筆すべきである。大鎌を携えた骸骨という西欧の伝統的な死神とは全く異なり、ゴス風の快活な女性として描かれたデスはシリーズの中でも屈指の人気キャラクターとなり、コミックの歴史に刻まれた。ゲイマンは2014年のインタビューで、本作が独自の作品に脱皮することができたのはドリンゲンバーグの作画があってのことだったと述べている。ドリンゲンバーグ自身は本作の作画について、読者の想像力に訴えるため幻想的な描写を抑えめにしたことや、論理の飛躍 (visual non-sequitur) を用いて注意を引き付ける手法について語っている。
このころには『サンドマン』はDC社のカルトヒット作となっていた。メインストリーム・コミックの読者層とは異なる女性や年長者のファンも多く、それまでコミックと無縁だった者もいた。コミック史家レス・ダニエルズは本作を「驚くべき傑作」と呼び、「ファンタジーやホラー、アイロニックなユーモアを混ぜ合わせた作風はコミックブックにこれまでなかったものだ」と指摘した。コミック原作者でDCの重役でもあったポール・レヴィッツは次のような所見を述べている。
ゲイマンは早くから物語の結末とともにシリーズを終了させようと考えていた。しかしシリーズの権利を所有するDC社が人気作を終わらせたがらないのは明白だった。ゲイマンは長年にわたって直接間接に意思を伝え続け、DC社との絶縁をちらつかせることもした。DC側はゲイマンを降板させて別の作者にシリーズを継続させることもできたが、結局は彼の意向に従った。このような作家主義的な措置はコミック界でほとんど前例がなかった。シリーズが完結した年にゲイマンは以下のように語っている。
主人公ドリームは第69号(1995年6月)で死を迎え、人間の幼児ダニエルが後継者となる。第70–72号ではドリームの葬儀が行われ、第73号ではそのエピローグが書かれた。さらに作中の過去を舞台にした2編の物語が書かれたところでシリーズは完結した。最終号となった第75号は1996年3月に発行された。
当初、ゲイマンは本作が1年後に全12号で打ち切られる可能性を想定していた。最初のストーリーラインが第1-8号で構成されたのはそのためだった。仮に打ち切りになったとしても、最終号でストーリーの区切りをつけるのは避け、残りの4号に短編エピソードを入れて余韻を残せば、後に復刊されるかもしれないと考えたのだった。シリーズ第1号はマッキーンによる印象的な表紙や宣伝の効果もあって8万部という良好な売れ行きを示したが、第4号までに4万部に落ち込んだ。しかし第5号からは毎号数100部ずつ上昇していった。第8号はDC社内での前評判が高く、コミック専門店に対して無償のコミックブックを配布するなど大々的な販促活動が行われた。この号は実際にホラータイトルとして抜きんでた成功を収めたため、ゲイマンは安心してシリーズ全体の詳細な構想を立てはじめた。シリーズはここでDC社の人気キャラクターをあまりゲスト出演させない方向に舵を切ったため、いくらかの読者を失うことになったが、巻を追うごとにそれ以上に新しい読者が入ってきた。
1980年代から90年代にかけてのアメリカン・コミック界では、閉鎖的なファン層に支えられた危うい好況が続いており、コレクター向けの限定版コミックで発行数を水増しすることが常態化していた。この状況は1994年に破綻を迎え、コミック専門店や小出版社の廃業が相次ぎ、発行数が全体に急低下した。しかし、本シリーズはその影響をほとんど受けず、毎号10万部前後を維持したため、月刊タイトルの売上ランキングにおいて70位台から25位まで上昇した。最終号はランキング1位を占めた。年間発行数は最大で120万部に達した。
夢の領域の住人として初期に登場したキャラクターの多くは、DC社のホラーシリーズでナレーター役を務めていたキャラクターだった。「最初の物語の殺害者と犠牲者」であるカインとアベルの兄弟はそれぞれ『ハウス・オブ・ミステリー』、『ハウス・オブ・シークレッツ』のナレーターだった。城の司書ルシエンは『テールズ・オブ・ゴースト・キャッスル』から取られた。夢の国の洞窟に住むイヴ(アダムの妻)は『プロップ!』誌に登場していたが、マダム・ザナドゥのイメージも取り込まれている。プロット上重要な役割を持つ三人の魔女もまたホラーシリーズ『ウィッチング・アワー』から取られた。これらは歴史の中に埋もれた平板なキャラクターだったが、本シリーズで奥行きが与えられたことで、ヴァーティゴ作品にたびたび顔を出すようになった。
シリーズ初期にはDC社の「成人読者向け」タイトルとのクロスオーバーが行われた。『サガ・オブ・スワンプシング』第2シリーズ第84号(1989年3月)では、長年の登場人物であったマシュー・ケーブルが命を落とし、ドリームによって夢の大烏に変えられて『サンドマン』のキャラクターとなった。『ヘルブレイザー』第19号ではドリームが同誌の主人公ジョン・コンスタンティンと出会う。『サンドマン』第3号(1989年3月)では逆にコンスタンティンがゲスト出演を行った。
第4号(1989年4月)ではアラン・ムーアが『スワンプシング』誌で書いた地獄がストーリーに取り入れられ、ルシファー、ベルゼブブ、アザゼルの3人を頂点とする地獄の位階が導入された。翌月の第5号(1989年5月)では、ドリームがDC世界のヒーローチーム、ジャスティスリーグ・インターナショナルを訪問した。
これ以降もDCキャラクターが登場することはあったが、多くは1、2話のゲストに止まり、本編プロットとDCの主流世界が深く関与することはなかった(後述するフューリーは例外である)。
シリーズのタイトル『サンドマン』は主人公の異名の一つだが、本シリーズ以前からDC世界にはサンドマンという名のスーパーヒーローが複数存在した。ゲイマンはそれらを自らの物語に取り込み、主人公ドリームと関係づけた。
1940年代に活躍した初代サンドマン(ウェスリー・ドッズ)はガスマスクと催眠ガス銃を武器として犯罪と戦うありきたりなヒーローだった。本シリーズでは、ドリームが幽閉されていた時期にドッズはその魂の一部を受け取り、霊感を受けてヒーロー活動を始めたとされた。後年にはこの解釈に基づいたドッズを主人公とするスピンオフ作品も発刊された。ドリームがガスマスクに似たヘルメットを着用するのは、初代サンドマンへのオマージュと思われる。
二代目となるジャック・カービー期『サンドマン』(1974–1976年)はスーパーヒーローのような衣装をまとっているが、本物の眠りの妖精であった。カービー版シリーズが短期で終わってからしばらくして、コミック原作者ロイ・トーマスは二代目サンドマンの設定を変更し、その正体は夢の次元に閉じ込められた人間ギャレット・サンフォードだとした(1983年)。トーマスは続いて自作『インフィニティ・インク』第50号(1988年5月)でヘクター・ホールというヒーローにサンドマン(三代目)の名を受け継がせた。
ゲイマンは本シリーズ第11–12号(1989年12月-1990年1月)で設定の変更を行い、二代目・三代目のサンドマンは手下の悪夢ブルートとグロブに操られていたことにした。2体の悪夢はドリームの支配から逃れて、偽のサンドマンを戴く自分たちの王国を作ろうとしたのだった。しかし2体はドリームによって罰され、ヘクター・ホールは消滅させられる。ホールはスーパーヒロインのフューリー(本シリーズでは本名のリタ・ホールで呼ばれる)と結婚していた。夫を失ったリタは後の巻で再登場し、遺児ダニエルとともに大きなプロット上の役割を担うことになる。フューリーは元々ギリシア神話に由来するキャラクターで、超人的な力は女神ティーシポネーに与えられたものだった。本作ではティーシポネーを始めとする三相一体の女神エリーニュスもまた重要な役割を演じた。
作者ゲイマンはシリーズ全体を一文で「変わり得ない者は死ぬしかないと学んだ夢の王は、自らの運命を選ぶ」と表現したことがある。「変わるか、死か」、あるいは「変化・変容・自己と世界の再創造」のテーマは、当時のゲイマンがメンターとしたクライヴ・バーカー(『血の本』)やアラン・ムーア(『ミラクルマン』、『Vフォー・ヴェンデッタ』など)にも共通していた。批評家ヒラリー・ゴールドスタインによれば、主人公ドリームが闘う相手は強大な怪物などではなく「自分自身のエゴ」であり、それが本作を悲劇にしている。コミック研究団体セクワートのスチュアート・ウォレンは「成熟して別の何かになること、成長とともに責任を引き受けること、進んで変化を受け入れる度量を持つこと」が主題だとした。グレッグ・カーペンターは「過去の伝統や価値観が根拠を失ったポストモダンの世界に生きながら、それらの観念をどのように受け止めていくか」という問いかけがあるとした。
夢と物語の主題もまた本作の大きな部分を占めている。作者ゲイマンは「夢」の意味として、眠りの中で見る夢、希望としての夢、そして「世界に意味を見出すため、我々が自分自身に信じさせる物語」としての夢を挙げた。ヒラリー・ゴールドスタインは本作を「夢を見る行為ではなく、むしろ夢という概念についての」コミックブックと呼んだ。マーク・バクストンは本作を「物語という業と、潜在意識の本質への愛情あふれるトリビュート」とした。デイヴ・イツコフは『ニューヨーク・タイムズ』で本作を評して「夢は物語作家にとっての究極の自由を表している。伝統的なナラティブのルールが適用されない舞台設定であるにとどまらず、野心的で才気あふれる作者にとってはルールを完全に書き変えることが許される空間なのだ」と書いた。文学者フランク・マコーネルは、超越的な存在だったドリームが人間的なものへと変化するストーリーを近代文学の勃興についての寓話と捉え、「壮大なメタフィクションであり、物語についての物語にほかならない」と述べた。
作家スティーヴ・エリクソンは本作を「迷宮のように入り組み、眩暈がするほど複線的である … 全てのページを地面に並べて鳥の視点から見下ろしたくなる」と表現しつつ、全編を通じて喪失の感覚が語られていることを指摘した。シンガーソングライターのトーリ・エイモスは、本作は現代の神話として読まれており、全一性がテーマにあると述べた。
本シリーズは数号にわたる長編ストーリーや一号完結の短編からなる。それらの題材は多様だが、単発のエピソードの羅列ではなく全体として一つの物語となっている。一般的な月刊コミックブックでは、作中の時間の流れはあいまいで、物語は基本的にいつまでも続く。しかし本作では現実と並行して年月が経過していることが全編を通して明示されており、不可逆な事象の積み重ねによって物語の結末を導く意図があるとされる。構成は緻密で、一つ一つのコマに至るまではっきりした意図のもとに配置されてストーリーを展開している。『トランスメトロポリタン』や『Y:THE LAST MAN』など、後にヴァーティゴから刊行された作品の多くは本作にならって、最初のストーリーが結末に向けた伏線になっているという周到な構成を採用した。
本作はダーク・ファンタジー(ホラー)のジャンルに分類されるが、背景はどちらかというと現代的である。批評家マーク・バクストンは本作を「名手の手による物語で、大人が読むダーク・ファンタジーの潮流を作った」と評し、それ以前のファンタジー・ジャンルでは小説やコミックを含めて同種の作品はなかったと述べた。本作はまた業界の制約にとらわれず、アーバン・ファンタジー、神話の再解釈、史劇、スーパーヒーローのような多様なジャンルを縦横に利用している。
初期のエピソードでは、『サンドマン』の神話体系はDCユニバースの一部であり、数多くのDCキャラクターが直接間接に登場していた。しかしシリーズが進むにつれ、他誌とのストーリー上の関連性は弱められていった。その理由の一つは創作上の自由を確保するためである。シリーズの連載中、ほかのタイトルのストーリー展開に足並みを合わせるよう求められたゲイマンは、編集者カレン・バーガーと激しく衝突することがあった。コミック原作者のグラント・モリソンは本作を評して、「スーパーヒーロー・コミックという当初の立脚点を逸脱して […] ファンタジーやホラーと文学の交差する地点に、新しいジャンルを確立することになった」と述べている。
作者ゲイマンは、シリーズの長編ストーリーラインに「男性的」なものと「女性的」なものを交互に配置したと述べている。男性主人公ドリームが困難な状況に挑む「プレリュード&ノクターン」や「シーズン・オブ・ミスツ」は男性的なストーリーであり、人間女性のキャラクターを中心に置いて人間関係やアイデンティティのテーマを扱った「ドールズハウス」や「ゲーム・オブ・ユー」は女性的なストーリーだとされた。
シリーズの正レタラーを務めたトッド・クラインはアメリカのコミック界きっての名手と認められており、代表作となった本作のレタリングで連続3回のアイズナー賞、3回のハーベイ賞を受賞している。クラインによると、ゲイマンは本作の主要登場人物それぞれに固有の字体と吹き出しの形をデザインするよう要求した。主人公ドリームには夢の移ろいやすい性質を表すため不定形の吹き出しが使われ、黒地に白の文字が入れられた。狂気の具現化であるデリリウムの吹き出しには虹色のグラデーションが用いられ、文は波打っており、字体や文字サイズは一定しない。中世ファンタジー世界を舞台にした「ゲーム・オブ・ユー」ではカリグラフィーの技法が使われた。最終号 Tempest では、主役となるシェイクスピアの直筆を模して字体が作られた。クラインが本作のために作り出したスタイルは30種に及ぶ。デジタル化以前の時代であり、これらのレタリングはほぼ全て手作業で行われた。
デイヴ・マッキーンのカバーアートはファインアートや現代デザインを取り入れた際立ったもので、シリーズの顔となった。作家スティーヴ・エリクソンは「信じられないほど不気味な、イドに苛まされた表紙」と評した。当時、コミックの表紙には必ず主人公キャラクターを描くのが通例だったが、マッキーンは編集のバーガーを説き伏せ、作品のテーマを題材とした表紙画を制作した。マッキーンは本作の思索的なストーリーに合わせて「少しシュルレアルで、物憂げで、内省的な」イメージを覗かせる窓枠として表紙を機能させようとしたと述べている。初期の号では、絵具で描かれた絵と、彫刻やオブジェを並べた棚をコラージュした写真が多く用いられた。1994年にマッキーンがMacintoshのコンピュータを導入してからはPhotoshopも使用され始めた。マッキーンは本シリーズで全号の表紙を制作し、スピンオフ誌『ドリーミング』でも続投した。1998年には本シリーズの表紙画集が Dustcovers: The Collected Sandman Covers のタイトルで刊行された。
『サンドマン』第19号 A Midsummer Night's Dream は1991年に世界幻想文学大賞最優秀短編賞を受賞した。コミックブックとしては異例の受賞だった。アメリカのコミック界で権威あるアイズナー賞はオリジナルシリーズだけで20回近く受賞している。内訳は継続シリーズ部門3回、短編部門1回、ライター部門4回(ニール・ゲイマン)、レタリング部門7回(トッド・クライン)、ペンシラー/インカー部門2回(チャールズ・ヴェスとP・クレイグ・ラッセル)などである。またハーベイ賞は継続シリーズ部門1回、ライター部門2回を受賞している。スピンオフ『夢の狩人』は2000年にヒューゴー賞の関連書籍部門にノミネートされた。『夢の狩人』と『エンドレス・ナイツ』はそれぞれ1999年と2003年にブラム・ストーカー賞のイラストレーテッド・ナラティブ部門を受賞した。「シーズン・オブ・ミスツ」は2004年にアングレーム国際漫画祭最優秀シナリオ賞を受賞した。本編シリーズの前日譚であるミニシリーズ The Sandman: Overture『サンドマン 序曲』は2016年にヒューゴー賞グラフィック・ストーリー部門を受賞した。
本作は、子供向けのポップなメディアであったアメリカン・コミックスに新たな文学的な感覚を持ち込んだ作品の一つだと認められている。1950年代以来、アメリカのメジャーなコミック出版社はコミックス倫理規定の影響で子供向けのスーパーヒーロー作品を中心に刊行しており、多様で現代的なジャンルを扱う土壌がなかった。80年代に至ってコミックス倫理規定の影響力が弱まり、『バットマン: ダークナイト・リターンズ』、『ウォッチメン』など、形式やテーマの面で新しい地平を開く傑作が登場してコミックの文化的地位を高めた。しかしそれらは、露骨な暴力描写やシニシズムを主軸とする亜流作品をも生んだ(当時流行した作風は "grim and gritty"「暗くざらついた」と呼ばれた)。ストーリーをシリアスに見せるために女性への暴力を使ったり、女性を性的対象として描写する傾向がいっそう強くなったのもこの時期だった。
そんな中で登場した『サンドマン』はストーリーテリングの精妙さで抜きんでており、女性や一般読者にアピールする作風でコミックの読者層を広げたと評価されている。派手な戦いが毎号の見せ場になる従来のコミックブックとは対照的に、ゲイマン作品では交渉や外交がストーリーの焦点となり、主人公と敵役はより穿った形で競い合う。当時コミック読者の大多数は男性だったと言われるが、本作のファンは男女比が拮抗していた。また多様性や多文化主義のテーマを早くから扱っていたいう点でも影響は大きかった。批評家ターシャ・ロビンソンは「創造的で生彩に富み、気品を備え、そして大いに野心的な物語であるが、それでもなお細部のディテールと瞬間を美しくとらえている」と述べ、「現代コミックの基礎を作った」と評した。
スティーヴン・キング、ピーター・ストラウブ、クライヴ・バーカーら、幻想文学やホラー小説の大家が序文を寄せたグラフィックノベル(単行本)はコミックの枠を越えた読者層を獲得し、メインカルチャーに受け入れられた。作者ゲイマンの創作の原点であったSF作家、サミュエル・R・ディレイニー、ハーラン・エリスン、ロジャー・ゼラズニイらは『サンドマン』の愛読者となった。ゲイマンは一種のカルチャー・ヒーローにのし上がり、積極的に多くのインタビューを受けて、文学寄りのコミックのスポークスパーソン的な立場になった。あるパーティーでゲイマンに引き合わされた作家ノーマン・メイラーは『サンドマン』に興味を覚え、単行本に「これは知識人のためのコミック・ストリップだ。そろそろこういう作品が出てもいいころだ」という推薦文を提供した。メイラーの言葉は読書界に影響力が大きかったという。ピューリッツァー賞フィクション部門の選考委員であったフランク・マコーネルは、ゲイマンが選考対象外の英国人でなければ、文学界の反発があったとしても全力で推しただろうと発言している。本作を題材にした論文集・研究書・解説書も刊行された。コミック研究についてのオープンアクセスジャーナル ImageTexT が出したニール・ゲイマン特集号では、ゲイマンの「間テクスト性指向、文学と歴史への深く幅広い言及、コミックおよび短編・長編小説作家としての明白な力量」に研究対象として高い価値があるとされた。
『サンドマン』はDCコミックス社の成人向けラインであるヴァーティゴを開拓した作品の一つでもある。はじめにその流れを作ったのは、1983年に『サガ・オブ・スワンプシング』誌の原作に起用された英国人アラン・ムーアだった。ムーアはアメリカン・コミックの枠にとらわれず、時代遅れのモンスター物だった同誌に抒情的な文章と鋭い社会批判を持ち込んだ。担当編集者カレン・バーガーは「知的で洗練された、文学性を持つコミックはそれが初めてだった」という。バーガーはDC社の英国担当となり、ムーアの後に続く英国人原作者を次々に発掘して頭角を現した。その中には『サンドマン』のニール・ゲイマンのほか、『アニマルマン』のグラント・モリソン、『ヘルブレイザー』のジェイミー・デラーノなどがいる。これらの原作者は「ブリティッシュ・インヴェイジョン」と呼ばれた。『サンドマン』などの人気を背景として、バーガーは1993年に作家性の強い作品を集めた新レーベル・ヴァーティゴを立ち上げ、女性を含む成人読者を対象に洗練された作品を送り出した。ジャンルとしてはファンタジーやホラーが主体で、ゲームを通じたこれらのジャンルの人気や、ゴス・エモなどのサブカルチャーの隆盛に後押しされて人気を得た。本作は『スワンプシング』や『ヘルブレイザー』と並んで看板タイトルとなり、「『サンドマン』はヴァーティゴと同義だ」の評価を得た。
ヴァーティゴは月刊コミックブック(標準32ページの冊子)をグラフィックノベル(単行本)として書籍化することにも意欲的であり、そこでも本作が主力商品となった。『サンドマン』が刊行されていた1990年代は、ダイレクト・マーケットを通じたコミック専門店の売り上げが低迷し、一般書店で売られるグラフィックノベルが台頭してきた時期だった。初期の本シリーズは月刊誌以外の形で刊行される予定がなかったため、数か月にわたる長編ストーリーでは、各エピソードの最初でそれとなく前号の要約を行うような配慮が必要だった。しかし後半の号はまとまった書籍として一気に読まれることを想定して書かれるようになった。月刊シリーズ終了後も本作はグラフィックノベルのシリーズとして書店に並び続け、新しい刊行形態の普及に貢献したとされる。
本作はゴスカルチャーの一部となったコミック作品として『ザ・クロウ』などとともに名が挙げられる。ダークな雰囲気を持ち、内向的なファンタジーである本作はゴスの間で好まれた。制作チームが初めから意図していたわけではなかったが、登場人物のドリームやデスはゴスとみなされることが多い。特にマイク・ドリンゲンバーグがデザインしたデスは、蒼白な肌、黒一色の服装、ホルスの目のタトゥー、アンクのペンダントなどゴスカルチャーと親和性の高い要素を多く含み、美や知性と人格の強さを感じさせる描写と相まって、コミックファンではないゴスにも受け入れられた。デスのモデルとなった女性シナモン・ハドリーは、ウェブメディアpost-punk.comによる訃報記事の中でゴスファッションへの影響を高く評価された。
第5巻「ゲーム・オブ・ユー」はマイノリティの扱いに関して批判を受けることがある。登場人物のワンダは男性として生まれ、女性としての自己認識を持つトランスジェンダーである。ワンダは作中で家族や隣人から女性性を否定されるだけでなく、肉体的に男性であることが理由で魔女の儀式に参加できず、それが遠因となって命を落とす。死後の魂は生まれつきの女性の姿で描かれる。トランスセクシュアルの作家レイチェル・ポラックは、このストーリーが作者ゲイマンのトランスジェンダーに対する不寛容を示すものだと批判した。メディア学の研究誌『シネマ・ジャーナル』では、メインストリーム・コミックで初めて本物のトランスジェンダーが扱われたことに一定の評価が与えられながらも、神霊を通じて提示されるジェンダー観が西欧的な価値観に縛られていることが批判された。
またアフリカ系の作家サミュエル・R・ディレイニーはこの巻の序文において、ワンダと同時に死んだキャラクターが作中唯一の黒人だったことを指摘した。ディレイニーによれば、読者の同情を引くため被抑圧者のキャラクターを死なせる展開は現実の支配的イデオロギーに沿ったもので、ファンタジー世界に組み込まれた「自然力」がそれを正当化しているのは問題があるという。ただし、ディレイニーは『サンドマン』に充溢するアイロニーと繊細さがそのような政治的パターンを相対化しているとも述べている。
これらの批判に対しては作者や批評家からの反論もある。作者ゲイマンによれば、物語中の「自然力」がワンダの女性性を認めなかったとしても、それは単に一つの視点を提示しているに過ぎず、彼自身は性自認に関するワンダの立場を支持しているという。トランスセクシュアルの作家ケイトリン・R・キアナンはポラックに一部同意しながら、作品全体としてはワンダを肯定的、共感的に描いていると評した。批評家デイヴィッド・ブラットマンは、作中で動物キャラクターや悪役の白人男性も殺されていることを批判者たちが無視していると指摘した。また、ワンダは「作中で唯一、高潔で英雄的、かつ勇敢で善良な行いをするキャラクター」として描かれており、だからこそ悲劇には彼女の死が必要なのだと擁護した。
他方では、このようなテーマをコミックで表現することそのものに対する批判も存在した。キリスト教原理主義団体であるアメリカ家族協会は本作の不買を表明し、版元ヴァーティゴに謝罪を求めた。また本作は、「ヤングアダルト対象書籍としては不適切」「家族の価値を損なう」「不快感を与える言葉遣い」のような理由により、複数のアメリカの図書館で規制の対象となってきた。2015年には、クラフトン・ヒルズ・カレッジの英語コースで「ドールズハウス」を含むグラフィックノベルが取り上げられたことに対し、ポルノグラフィを読むよう強制されたという抗議が学生から寄せられた。
本シリーズは初め、カラー32ページの月刊誌として刊行された。広告などを除くと各話は通例24ページだが、例外が8号ある。
当時、アメリカのコミック界では月刊コミックブックを再録した単行本(グラフィックノベル)はそれほど一般的ではなく、本作も単行本化される計画はなかった。しかし1989年に『ローリング・ストーン』誌で取り上げられて注目を集めた際に、同時期に刊行中だった二つ目の長編ストーリー「ドールズハウス」(第9–16号)の単行本化が急きょ企画された。タイトルは単に『サンドマン』とされた。デスが初登場した第8号 The Sound of Her Wings は一つ目の長編のエピローグにあたるが、特に人気が高かったため巻頭に掲載された。この売り上げが好調だったため、「ドールズハウス」を含む最初の3巻が別々のタイトルで刊行され、それらを集めた『サンドマン』ボックスセットが発売された。このとき第8号は第1巻「プレリュード&ノクターン」(第1–8号)の巻末に移された。最終的には月刊シリーズ全号が単行本化された。
トレードペーパーバック全10巻。1999年時点で英国での発行数が25万部、米国では100万部以上とされる。2003年時点では19か国、13言語で翻訳出版され、全世界で700万部が発行されていた。2007年には発行数は1000万部を超えていた。
2010年からは、後述のアブソルート版で新しく彩色されたアートを用いた New Edition(新版)の刊行が始まった。
DC社の愛蔵版シリーズ「アブソルート・エディション」の一つ。2006年11月に刊行された第1巻は99ドルの値段が付いた革装箱入りの豪華な本で、添付された冊子には、オリジナルシリーズの概要、DCコミックス社長による新しい序文、新しい後記、A Midsummer Night's Dream(第19号)の下描き・草稿などが収められていた。初期の号の多くは大幅に修正・再彩色が施されている。DC社は新版刊行のプロモーションとしてコミックブック第1号を再版した。
本作には多様な文芸、聖書やオカルト、実在の人物からの引用やパスティーシュが含まれており、それらを詳解した注釈付きの版が発売された。注釈作業はホームズや吸血鬼ドラキュラ の注釈本で知られるレスリー・S・クリンガーがスクリプト原本を元に行った。
アノテーテッド(注釈)版第1巻は2012年1月に12×12インチの白黒本として刊行された。注釈はページ毎・コマ毎に行われ、ゲイマンのスクリプトからの抜書きが載せられたほか、歴史・神話・DC世界に対して幅広く行われている引用が解説された。アノテーテッド版第1巻は2012年にブラム・ストーカー賞最優秀ノンフィクション賞にノミネートされた。
2013年には『サンドマン』シリーズ25周年を記念して、重厚なハードカバー本「サンドマン・オムニバス」が発売された。ゲイマンのサインが入った箱入り銀箔押し装丁の特別版も発売された。
1998年から翌年にかけて、海法紀光と柳下毅一郎の翻訳により、原書の第3巻までが5冊に分けられて刊行された(柳下が「ドールズハウス」を、海法が他3冊を翻訳)。1999年にはスピンオフ作品『デス―ハイ・コスト・オブ・リビング』が、2000年には夢枕獏と小野耕世の翻訳により『夢の狩人―The sandman』が刊行された。版元インターブックスによると当時は作品や作者の知名度が低く、売れ行きは芳しくなかったという。
2012年の『S-Fマガジン』に掲載された日本語版の短評では、「アメコミの枠を超えた幻想的な世界像と、スタイリッシュな語りの魅力で人気を博し … アメコミ、グラフィックノベルに再度光の当たっている今こそ、全巻の刊行を期待する」とされた。
2021年にオーディオドラマが、翌年に実写版が日本展開されたのを受けて、インターブックスから日本語版が新訳で復刊された。第1弾は The Sandman: Overture 30th Anniversary Edition を底本とする『サンドマン 序曲』(2023年4月)である。
en:List of The Sandman spinoffsも参照のこと。
ゲイマンは本編の刊行中にデスを中心とするミニシリーズを2編書いている。1993年3月から5月にかけて刊行された『デス―ハイ・コスト・オブ・リビング』では、デスが命の有限性について学ぶため1世紀ごとに人間としての生を生きるという寓話が語られた。同作はDCの成人読者向けインプリントであるヴァーティゴから最初に刊行されたタイトルだった。1996年に出された続編『デス―タイム・オブ・ユア・ライフ』では、デスは背景に引っ込み、本編第5巻で登場したレズビアンのカップル、フォックスグローブとヘイゼルの関係が物語の中心となった。
1993年末に行われたヴァーティゴのクロスオーバーイベント The Children's Crusade では、本作第4巻の短編で登場した幽霊の少年たちを主役とするタイトル The Dead Boy Detectives が描かれた。その後、同タイトルは別の原作者の手によって数回にわたって刊行された。
1998年から2000年にかけて3号が刊行されたヴァーティゴの年刊アンソロジー Vertigo: Winter's Edge にはエンドレスを主役とする短編が掲載されていた。The Flowers of Romance(1998年)では、欲望の生き物であるサテュロスの生き残りがデザイアに最後の願いをする。A Winter's Tale(1999年)では、デスが酷薄な死の運び手から現在のような共感的なキャラクターに変わった経緯が語られる。How They Met Themselves(2000年)では、芸術家の夫に裏切られた女性が毒をあおり、こと切れるまでの短い間に、デザイアから真に愛していた相手を知る機会を与えられる。
1999年、ゲイマンは天野喜孝のイラストレーションで中編小説 The Sandman: The Dream Hunters を書いた(邦題『夢の狩人―The sandman』)。日本の山奥に住む僧侶を化かそうとするうち恋に落ちた狐の物語で、『サンドマン』シリーズの短編でよくあるようにドリームは脇役となる。同書の後書きでは実在する民話が下敷きになったと書かれたが、出典とされた『日本昔話』(英子セオドラ尾崎による英訳)には該当する物語は存在しない。ゲイマンはあからさまな嘘として書いた文章がうまく伝わらなかったと述べている。本作は後にP・クレイグ・ラッセルの作画でコミック化され、全4号のミニシリーズとしてヴァーティゴから刊行された(2009年1–4月)。
2003年、ドリーム(モルフェウス)と兄弟姉妹を主人公とする7篇の物語を集めた『エンドレス・ナイツ (The Sandman: Endless Nights)』が出版された。物語の時代設定は様々だが、本編完結後の出来事を描いたものもあった。作画は作品ごとに異なるアーティストが担当した。同書は『ニューヨーク・タイムズ』ベストセラーリストのハードカバー部門に名を連ねた最初のグラフィックノベルだった。
『サンドマン』の刊行25周年には本編の前日譚『サンドマン 序曲』(The Sandman: Overture)が書かれ、J・H・ウィリアムズIIIの作画で全6号のリミテッドシリーズとして刊行された。これまで漠然としか語られていなかった本編開始以前のドリーム(モルフェウス)の冒険を描いたもので、それによって彼が疲弊していたことが、本作冒頭で人間の魔術に捕らわれてしまった原因だとされた。第1号の発行は2013年10月30日であった。制作者へのインタビューとオリジナルイラストレーションが収録された特別版が各号について刊行された。『序曲』は2016年にヒューゴー賞の最優秀グラフィック・ストーリー部門を受賞した。
本編完結直後の1996年に発刊された『ドリーミング』は本作とキャラクターや舞台設定を共有しているが、ゲイマンはドリームやほかのエンドレスについては自由に使用する許可を与えなかった。『ドリーミング』は60号で終了した。1997年からは「サンドマン・プレゼンツ」のタイトルの下、『サンドマン』の登場人物を主人公とした単発作品の刊行が始まった。そのうちの一作、『サンドマン・プレゼンツ: ルシファー』(1999年)から発展した定期シリーズ『ルシファー』は2000年から全75号が発行され、テレビドラマ(『LUCIFER/ルシファー』)にもなった。
1996年、ゲイマンとエド・クレイマーの編集により短編小説のアンソロジー『ブック・オブ・ドリームス (The Sandman: Book of Dreams)』が刊行された。著者にはコリン・グリーンランド、トーリ・エイモス、スザンナ・クラークらが名を連ねた。
原作者兼作画家のジル・トンプソンは『サンドマン』のキャラクターを使ったコミック作品を何冊か描いている。日本マンガのスタイルで描かれた Death: At Death's Door は本編第4巻「シーズン・オブ・ミスツ」と並行して起きた出来事を描く作品で、2003年にDCコミックのベストセラーの一つとなった。The Little Endless Storybook はエンドレスたちを子供として描いた児童書である。2010年にはその続編 Delirium's Party: A Little Endless Storybook が出された。
2018年8月からDCユニバース内の「サンドマン」関連タイトルを集めた新ライン『サンドマン・ユニバース (The Sandman Universe)』の刊行が開始された。
ゲイマンは1995年にマット・ワグナーと共著で単巻作品『サンドマン・ミッドナイトシアター』を書いた。同作は初代サンドマン(ウェスリー・ドッズ)を主人公とするシリーズ『サンドマン・ミステリーシアター』のスピンオフで、ドリームとドッズの短い邂逅が描かれている。2001年、ドリームは『グリーンアロー』(第3シリーズ第9号)の回想シーンに登場した。これは本作で語られた70年の幽閉の間に起きた出来事である。本作完結後のドリーム(ダニエル)はグラント・モリソン原作期の『JLA』(1998年、第22–23号)に登場したほか、『JSA』(2005年、第80号)において両親リタ・ホールとヘクターを保護する姿が描かれている。
人気キャラクターのデスは他誌へのカメオ出演も多かったが、1990年の『キャプテン・アトム』誌(第42–43号)では本シリーズの設定と矛盾する役割を与えられた。これを受けて、DC社がエンドレスのキャラクターを使うときにはゲイマンの許可が必要だという取り決めがなされた。2010年に『アクション・コミックス』(第894号)でスーパーマンの宿敵レックス・ルーサーが死んだときには、ゲイマンの執筆協力の下でデスが登場した。
2017年に始まったDC社の大型クロスオーバー『バットマン・メタル』では、2011年の世界再編イベント『New 52』以来DC世界と交わってこなかったドリーム(ダニエル)が、スーパーヒーローたちに宇宙創成の物語を明かすという大きな役割を持って登場した。メインライターのスコット・スナイダーは、思い入れのあるドリームの使用許可をニール・ゲイマンから与えられたことを「掛け値なしに人生で最高の出来事の一つ」と述べた。
トーリ・エイモスの楽曲 Tear in Your Hand(1992年のアルバム『リトル・アースクウェイクス』収録)の歌詞には、「ニール(ゲイマン)」と「夢の王」に触れた個所がある。後にエイモスとゲイマンは親交を持つようになった。本作の登場人物デリリウムのキャラクターは部分的にエイモスからヒントを得ていると言われる。2006年にはゲイマン作品を題材にしたトリビュート・アルバム Where's Neil When You Need Him? が制作され、エイモスもエンドレスのデザイアにインスパイアされた楽曲 Sister Named Desire を提供した。
1990年代の後半から、DCの親会社であるワーナー・ブラザースは本作の映画化を繰り返し試み続けた。1996年には『パルプ・フィクション』の原案で知られるロジャー・エイヴァリーが監督に指名された。パイレーツ・オブ・カリビアンの脚本家テッド・エリオットとテリー・ロッシオがスクリプト初稿を書き、エイヴァリーとともに改稿した。この時点では、映画版のストーリーは「プレリュード&ノクターン」と「ドールズハウス」が元になっていた。しかしエイヴァリーはエグゼクティブ・プロデューサーのジョン・ピーターズ(映画『バットマン』や製作中止になった Superman Lives で知られる)と意見が衝突して解任された。企画は続行したが、脚本は改稿が重ねられた。この時期、主人公ドリームは悪と闘う一般的なスーパーヒーローのように描かれる方針だったと伝えられている。ゲイマンはワーナーから最後に送られた脚本を「それまで見た『サンドマン』スクリプトの中で最悪だったし、それどころか私が読んだあらゆるスクリプトの中で最悪だった」と評した。1998年時点の脚本草稿はウェブサイト Ain't It Cool News によって酷評されている。
映画版の企画が難航したため、DC社はテレビシリーズ化に目を転じた。親会社ワーナー・ブラザースと離れてケーブルチャンネルHBOと組んだ企画は実現に至らなかった。このときの製作にはジェームズ・マンゴールドが関わっていた。2010年9月にはワーナー・ブラザース・テレビジョンがテレビシリーズ製作権の取得に動き、『スーパーナチュラル』原案のエリック・クリプキが製作者候補に挙げられた。2011年3月、ニール・ゲイマンはブログでDCとともにクリプキの製作方針を検討したことを伝えたが、結局クリプキはテレビシリーズの企画から外れたと報じられた。
2013年12月、デヴィッド・S・ゴイヤーが脚本の責任者、ジョセフ・ゴードン=レヴィットが主演兼監督、ニール・ゲイマンがエグゼクティブ・プロデューサーを務める映画版の企画が進行中だと報じられた。当初の脚本執筆はジャック・ソーンが行った。配給はニュー・ライン・シネマであった。2015年10月、ゴイヤーは翌年から製作が開始される予定だと述べた。2016年3月、『ハリウッド・リポーター』はエリック・ハイセラーによって脚本の改稿が行われると報じた。その翌日、ゴードン=レヴィットはニュー・ライン社とクリエイティブ面で意見が衝突して監督を降板したと告知した。2016年11月9日にio9が伝えたところでは、ハイセラーは脚本の草稿を提出したものの、原作の長大な構成は映画よりもテレビシリーズ向きだ発言して製作から身を引いたという。
2019年7月、全11話のドラマシリーズがNetflixから配信されることが報じられた。エグゼクティブ・プロデューサーには原作者ゲイマンのほかアラン・ハインバーグとデヴィッド・S・ゴイヤーが名を連ねた。ストーリーの主体は第1巻「プレリュード&ノクターン」から取られており、時代設定は現代に改められた。本作の権利者ワーナー・ブラザースとNetflixとの間に結ばれた契約は「[DC社の] テレビシリーズでもっとも高額」とされている。
2020年7月、Audibleからオーディオドラマ版 The Sandman が配信された。単行本第3巻までの内容が延べ11時間の20話で構成されており、原作者ゲイマンは製作に携わるとともにナレーターも務める。ジェームズ・マカヴォイが主人公ドリームを演じる。同作は2021年1月時点でアマゾンオリジナルAudibleタイトルのベストセラー第一位だった。続編の配信も予定されており、シーズン2は原作第4—6巻の一部、シーズン3は第7, 8巻の内容が元になる。2022年には森川智之(ドリーム役)、今井翼(ナレーション)などによる日本語版20話が配信された。
DCとフォックスは2014年に『サンドマン』のキャラクターであるルシファーを前面に出したテレビシリーズを企画した。Lucifer(邦題『LUCIFER/ルシファー』)第1話はFoxネットワークを通じて2016年1月25日に放映された。同シリーズは原作からルシファーの基本設定を引き継いでいるが、内容的にはオリジナル性が強く、ドリームも登場しない。Foxによる放映は視聴率が振わなかったため第3シーズンで打ち切られたが、2019年からNetflixが代わって第4シーズンを配信することが決定した。
2023年11月12日、Geeked Weekにてテレビドラマ「サンドマン」のスピンオフとして、Dead Boy Detectivesを主人公としたドラマがNetflixにて配信されることが発表された。元々はHBO Maxにて製作される予定だったが、DCユニバースとの関係によりNetflixへと移った。
2024年4月25日、Netflixにて配信予定。
発行日以外のデータは Bender 1999, pp. 264–270 による。
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