予讃線(よさんせん)は、香川県高松市の高松駅から愛媛県松山市の松山駅を経て、愛媛県宇和島市の宇和島駅に至る四国旅客鉄道(JR四国)の鉄道路線(幹線)である。このほか、愛媛県内の向井原駅から内子駅までと、新谷駅から伊予大洲駅までの支線を持つ。この2つの支線は、内子駅から新谷駅までの内子線を経由して繋がっており、向井原駅 - 伊予大洲駅間を結ぶ短絡ルートを形成している。
日本国有鉄道(国鉄)時代は予讃本線(よさんほんせん)と呼ばれていたが、民営化後の1988年にJR四国は線路名称を改正し、予讃線に改称した。瀬戸大橋の開通後、本州・四国間連絡を担う区間の一部である高松駅 - 坂出駅 - 宇多津駅間には本四備讃線・宇野線の茶屋町駅 - 岡山駅間と共に「瀬戸大橋線」という愛称が付けられている。また、2014年3月15日から伊予市駅 - 伊予大洲駅間の海回り区間に「愛ある伊予灘線」の愛称が付けられている。
なお、旅客向けの時刻表や『鉄道要覧』では内子駅経由の短絡ルートの分岐点を伊予大洲駅としているが、実際の分岐点は五郎駅 - 伊予大洲駅間にある伊予若宮信号場である。ここでは便宜上、時刻表や『鉄道要覧』に倣い伊予大洲駅を分岐点として記述する。
四国北部の瀬戸内海沿いを走り、香川県(旧讃岐国)西部と南予地方を含む愛媛県(旧伊予国)を東西に横断する路線である。JR四国の路線では最長の距離を持つ。
高松駅 - 松山駅間はJRの前身である国鉄の時代から四国の重要幹線として位置づけられ、早くから一線スルー化や遠隔操作 (RC) 化でスピードアップに取り組んでいた。さらに1986年、向井原駅 - 伊予大洲駅間について内子経由の新線が完成し、これまで伊予灘に面した伊予長浜駅経由の従来線で運転されていた特急・急行列車は、内子線を含めた内子駅経由の短絡ルートに変更され所要時間が短縮された。民営化後も高松駅から伊予市駅までの電化による電車の投入や重軌条化、未改良だった駅構内の一線スルー化、弾性分岐器化により高速化が図られ、単線区間を運転する列車の表定速度は日本全国の幹線の中でも最高水準である。
内子駅経由の新線の開通は、従来線でしばしば起こった台風上陸などによる運転見合わせから解放されたという点でも重要である。2005年夏に、相当な豪雨のため、並行する松山自動車道や国道56号、伊予長浜駅経由の予讃線旧線と並行する国道378号が全て不通になったときも、予讃線全体では不通とならなかった。しかし依然として八幡浜駅 - 宇和島駅間は、総じて旧線と同じくらいかそれ以上に険しい道のりであり、2006年夏に八幡浜駅 - 双岩駅間で倒木に上り特急列車の先頭車が接触して損傷してからは、旧線が運転見合わせになった場合、ほぼそれに合わせて徐行または運転見合わせをするようになった。
近代的な線路と裏腹に、通票閉塞時代の面影を残す駅が多い。伊予大洲駅 - 宇和島駅間の交換駅は、双岩駅と伊予石城駅以外では両開き分岐器を使用しており一線スルー化されておらず、特急停車駅でない駅のホーム嵩も低く当時をしのばせている。
JR四国は2006年に国土交通省交通政策審議会・交通体系分科会の地域公共交通部会に提出した資料で、長期的に望まれる投資として伊予市駅 - 内子駅 - 宇和島駅間の電化と、高縄半島の付け根を結ぶ伊予西条駅 - 松山駅間の短絡線建設を挙げている。
高松駅 - 多度津駅間はIC乗車券「ICOCA」のエリアに含まれている。なお2020年3月14日には、土讃線・高徳線の一部区間と同様に、ICOCAエリアを詫間駅・観音寺駅まで拡大した。
松山駅 - 高松駅間のうち単線である松山駅 - 多度津駅間の複線化の要望もあるが、2020年4月現在、採算性の問題もあって複線化の予定はないと愛媛県は回答している。
キロポストは新線経由も内子線区間も含め高松駅からの距離の表示となっている。
予讃線の沿線には日本100名城にも選定されている城が多く、うち丸亀・松山・宇和島の3城には現存天守がある。予讃線始発駅は高松駅。本州四国連絡橋ができるまでは、宇高連絡船が高松城(別名玉藻城)の月見櫓を横に見て入港した。丸亀城天守は丸亀駅南側の石垣で覆われた亀山山頂(標高66m)にあり、車窓からも見える。
高松からしばらく住宅地と田園風景の入り混じる中を走り、坂出駅 - 宇多津駅間では瀬戸大橋を見ることができる。瀬戸大橋線開業後、宇多津駅は手前の短絡線で快速「マリンライナー」など高松方面から本州方面に向かう列車が分岐し、同駅で松山・高知方面へ向かう列車が高松及び本州方面から合流する四国有数の鉄道における交通の要衝として発展している。多度津駅で高知方面に向かう土讃線と分岐し、海岸寺から詫間にかけては海沿いを走る。この両駅の間には、毎年8月4・5日の津嶋神社大祭期間中しか営業しない臨時駅の津島ノ宮駅がある。詫間から観音寺までは内陸部を進み、香川・愛媛県境付近で再び海沿いに出る。愛媛県に入ると川之江駅や伊予三島駅周辺で製紙・化学工場が海側に広がる。新居浜駅や伊予西条駅付近では、四国最大の工業地帯を北側に、西日本最高峰の石鎚山から続く山並みを南側に望むことができる。
伊予小松駅からは西進するほうが松山市に近いが、予讃線は四国第5の都市(県都以外では四国最大)である今治市(今治駅の利用者数も愛媛県内で第2位)を経由するために、海岸線と並行するように北へと回り込む。その今治には、しまなみ海道の来島海峡大橋や今治城の模擬天守があるが、市街地の向こうにあり良く見えない。大西駅から大浦駅付近にかけては予讃線電化区間で最も長く瀬戸内海に沿い、視界が良好な日には広島県の島々まで見渡せる絶景区間が広がる。日本最古の道後温泉を擁する四国最大の都市松山は、明治の俳人正岡子規に「春や昔十五万石の城下かな」と詠われた城下町で、駅の東側に松山城天守が標高132mの勝山山頂にそびえ、西側に西欧の古城の形をした松山総合公園展望台(標高131m)が見える。
伊予市駅で電化区間が終わり、その次の向井原駅では旧線(愛ある伊予灘線)と新線が分かれる。「愛ある伊予灘線」には下灘駅や串駅など海に近い駅として知られる駅があり海岸路線の趣も強いが、伊予長浜駅で進路を南東に変えると伊予大洲まで肱川に沿って内陸を走行する。一方、内子駅を経由する新線には犬寄峠を越える四国最長の犬寄トンネル(長さ6,012m)を始め多くのトンネルが介在し、山峡の風景はあまり広がらない。新旧両線が合流する伊予大洲駅から宇和島寄りに少し進み肱川橋梁(長さ269m)上に出ると、車窓には2004年に再建された大洲城の木造復元天守が現れる。
夜昼トンネル(長さ2,870m)を抜けると港町八幡浜へ向かう下り坂の行路となるが、八幡浜駅を過ぎても海岸には沿わず、最大33‰の急勾配で再び山中に分け入り、やがて穀倉地帯の宇和盆地へと達する。内子駅以西では、この宇和盆地内の平坦で直線区間が多い伊予石城駅 - 卯之町駅間だけ120km/h走行が可能である。下宇和駅から高光駅まで一気に下る途中ではリアス式海岸の風景が顔を出し、予讃線のハイライトとなっている。高光駅以南は宇和島市内の市街地を通り終点宇和島駅に到着する。宇和島城天守は宇和島駅から徒歩15分ほどの標高80mの山頂にそびえている。
多度津駅 - 宇和島駅間は単線であることと、各駅の有効長が特急停車駅でも大半が8両であるため、予讃線の輸送力は限界に来ている(ダイヤを見れば分かる通り、交換駅ではほとんど待避列車がある)。特急停車駅以外では有効長の短い駅が多いことと運転停車を減らす目的から、ダイヤ面で日中の特急列車の交換は極力伊予三島駅または川之江駅、多度津駅で行うようにダイヤが編成されている(このほか伊予北条駅から今治駅の間と、今治駅から伊予西条駅までの間の各1回、特急列車同士の行き違いが発生する)。なお、かつて特例として、団体輸送のためにキハ185系「しおかぜ」の5両編成を2組併結した10両編成や1990年11月ダイヤ改正前に2000系の松山運転所への車両の送り込みで6両(営業)+4両(回送)の10両編成で高松駅 - 松山駅間を運転したことがある。
以下の区間に特急列車が通る。松山駅 - 宇和島駅間の特急列車は全て内子駅経由で運転される。
特急「しおかぜ」は土讃線の特急「南風」とともに1972年3月15日に四国初の特急として運行を開始し、2022年に運行開始50周年を迎える。
普通列車は概ね観音寺駅・伊予西条駅・松山駅で運転系統が分かれており、各区間をまたがって運転される列車もあるが、高松駅 - 宇和島駅間の全線を通して運転される列車はない。ここ数年、長距離を運行する普通列車が増えてきており、伊予西条駅 - 高松駅間直通の快速「サンポート」や、高松駅 - 松山駅間を走行し一部区間を「サンポート南風リレー」として運行する列車が下り3本、上り2本ある。2020年3月改正までは各駅に停車する高松発松山行きが朝に存在したが、運行区間が短縮されて多度津発松山行きとなった。
瀬戸大橋線直通の本四連絡列車として高松駅 - 坂出駅間に快速「マリンライナー」、土讃線直通列車として高松駅 - 多度津駅間に琴平駅発着の列車があり、予讃線内の高松駅 - 琴平駅・観音寺駅間(一部は伊予西条駅・松山駅発着)には快速「サンポート」が運転されている。「マリンライナー」と「サンポート」は同じ快速という種別でありながら停車駅が異なり、前者は高松駅 - 坂出駅間は早朝・深夜を除き途中の駅には停車しない。このような運行形態のため、高松駅 - 坂出駅間には、日中時間帯1時間に3本の快速列車が運転されている。さらに、2本の普通列車、特急「いしづち」1本(特急「しまんと」運転時間帯は2本)が走るため、通過列車が多い。瀬戸大橋線開業後の1988年9月からは岡山駅 - 観音寺駅・土讃線琴平駅間直通の普通列車も運転されていたが、2019年3月16日のダイヤ改正で廃止された。
愛媛県内の電化区間は松山駅までは日中で1時間1 - 2本(伊予西条駅 - 今治駅間は2時間ほど開く時間帯あり)、伊予市駅 - 伊予大洲駅間が非電化の松山駅 - 伊予大洲駅間においては、伊予長浜駅経由と内子駅経由の気動車列車がほぼ交互に運転されており、1 - 2時間に1本の運転(伊予長浜駅・内子駅経由とも日中に2 - 3時間ほど開く時間帯あり。八幡浜駅 - 宇和島駅間の上りは5時間以上開く時間帯もあり)になっている。これらの多くは松山駅 - 八幡浜駅・宇和島駅間の運転である。松山駅 - 伊予市駅間は、1990年の電化後数年は昼間は大半が7000系電車での運転だったが、伊予市駅での乗り換えが嫌われたことと電車は多度津駅 - 松山駅間で重点的に運用する都合から、近年は電車は気動車列車のすき間を埋める形での運転になり、乗客数が少ない列車の廃止が進んだことと合わせ、2021年3月13日のダイヤ改正後は松山駅 - 伊予市駅間での電車列車は下り6本、上り5本となっている。松山駅を跨いて伊予北条駅・今治駅 - 伊予市駅間を直通する普通列車も減少傾向にあり、2023年3月改正時点で下りは3本、上りは1本となった。なお、2002年1月時点では今治発5時の松山行き始発列車がそのまま松山発内子線経由伊予大洲・八幡浜行きになる運用があった。
かつては高松駅 - 松山駅間の電化区間においても土讃線(阿波池田駅発着)との直通や出入庫の関係上、営業運転での気動車列車の運用も存在していた。
八幡浜駅 - 宇和島駅間では、キハ32形が33‰勾配の登坂でスリップして列車の運行に支障をきたさないようにする対策として、キハ54形を連結(編成の後部車両は締め切り)して走行している。この区間は2020年3月14日の改正で最終が22時台から21時台に繰り上げられた。
なお、当路線は四国地方では唯一日付を跨ぐ普通列車が運行されている路線である。
高松駅 - 観音寺駅間の2015年3月14日改正ダイヤの日中の各区間における1時間あたりの平均的運転本数は以下の通り。
2014年7月26日より四国初の本格的な観光列車「伊予灘ものがたり」が松山駅 - 伊予大洲駅・八幡浜駅間(愛ある伊予灘線経由)で運行されている。2022年からはキハ185系改造の2代目車両3両編成を使用し松山駅 - 伊予大洲駅間1往復、松山駅 - 八幡浜駅間1往復が土・日・祝日に設定されている。車内では愛媛産食材を使用した本格的な食事が提供されており、メニューは便毎に異なる。
2016年2月よりキハ54の内外装に愛媛県のマスコット「みきゃん」や愛媛県南予地域のマスコットおよび名所が描かれたラッピング列車「おさんぽなんよ」(列車名は一般公募により決定)が運行されている。これは同年に開催される「えひめいやしの南予博2016」に合わせて企画されたもので、車体はみかん畑をイメージしたオレンジと緑のツートンカラー。運行区間は予讃線松山駅以南および予土線宇和島駅 - 江川崎駅間。愛媛国体や全国障害者スポーツ大会が開催される2017年までの2年間、普通列車やイベント時の臨時列車に使用される予定だったが、2018年以降も引き続き使用されている。
1998年、当時の伊予長浜駅長の発案により、キハ32系を使用して7月・8月の計4回「夕焼けビール列車」を松山駅 - 伊予長浜駅間で運転した。翌1999年からは運転回数を増やし、車両も大型化してキハ54系を使用して運転。2001年よりキハ185系とキクハ32形を使用してトロッコ列車化され、「夕焼けビールトロッコ列車」として運転されている。
松山駅を発車後、愛ある伊予灘線の海沿い区間で夕焼けを鑑賞しながら飲食をし、伊予長浜駅で折り返して松山駅に戻る行程となっている。
貨物列車は高松貨物ターミナル駅 - 松山貨物駅間で運行されている。コンテナ車のみで編成された高速貨物列車が、高松貨物ターミナル駅 - 伊予三島駅間に1日2往復、高松貨物ターミナル駅 - 新居浜駅間に1日2往復、高松貨物ターミナル駅 - 松山貨物駅間に1日1往復、高松貨物ターミナル駅 - 坂出駅 - 岡山駅間に1日4往復設定されている。新鶴見機関区のEF65形電気機関車が全区間で牽引するほか、EF210形電気機関車が岡山駅 - 高松貨物ターミナル駅 - 新居浜駅間で運用されている。現在では基本的にEF210形電気機関車牽引での運転となっている。
予讃線の貨物列車の発着がある駅は高松貨物ターミナル駅、伊予三島駅、新居浜駅、松山貨物駅。このほか、高松駅と多度津駅が新車引渡しのため貨物駅(臨時車扱)に設定されている。
区間別平均通過人員(輸送密度:人/日)は以下の通り。
予讃線はトンネル断面(建築限界)が小さいまま電化したため、トロリ線高さが4250mmとなっている。トロリ線とパンタグラフはパンタグラフ折りたたみ時に250mm以上の隔離が必要であるが、JR四国は会社の方針で350mm以上の隔離を規定しているため、パンタグラフ折りたたみ高さが3900mmを超える電車は予讃線高松側から最初のトンネルである箕浦駅西側の鳥越トンネルを越えて愛媛県に入ることができない。JR四国所有のほとんどの電車、および貨物列車牽引のEF65形・EF210形電気機関車、寝台特急「サンライズ瀬戸」に使われる285系電車は鳥越トンネル通過対策がなされているが、「マリンライナー」専用の5000系の電動車は223系がベースでパンタグラフ折りたたみ高さが3900mmを超えるため鳥越トンネルを越えられない。
特記ないものはJR四国所有車。
特記ないものはJR四国所有車(過去の使用車両で1987年までに運行終了したものは国鉄所有車)。
7000系・7200系・キハ185系3100番台、キハ32・54形にはトイレが設置されていない。よって、これらのみで運用される伊予西条 - 宇和島間の普通列車は全てトイレなしとなる。伊予市駅 - 宇和島駅間では日中の列車は全てオールロングシート車となっている。
讃岐鉄道により開業した高松駅 - 多度津駅 - 琴平駅間を、山陽鉄道による買収を経て、1906年に国有化し「讃岐線」とした。その後、多度津駅から川之江駅、伊予西条駅までと順次延伸開業し、壬生川駅まで開業した際に「讃予線」と改称された。その後、「予讃線」「予讃本線」と名を改め1945年に高松駅 - 宇和島駅間が全通した。
うち伊予長浜駅 - 伊予大洲駅間は軽便鉄道であった愛媛線を1067mm軌間に改軌して編入したもの、宇和島駅 - 卯之町駅間は宇和島線を編入したものである。支線であった多度津 - 琴平間は後に阿波池田駅まで延伸され、高知線と繋がった際に土讃線として分離された。
伊予市駅 - 内子駅 - 宇和島駅間の電化と高縄半島の付け根を結ぶ伊予西条駅 - 松山駅間の短絡線建設、松山駅以西 (内子線経由の新線のみ) の特急列車を130km/h運転できるようにすること、伊予市駅以西の特急列車停車駅以外の駅についてもホームかさ上げが要望されている。特急列車の130km/h化の要望や検討は土讃線や牟岐線でもみられる。こういった背景には、JR化後に供用された松山自動車道、今治小松自動車道、宇和島道路や四国横断自動車道を走る高速バスと競合していること、八幡浜駅 - 宇和島駅間でキハ32形がスリップや車輪空転を頻発していることがあげられる。なお、JR四国の2009年度の事業に新型特急気動車の設計に着手することが盛り込まれている。
2023年に向井原駅 - 伊予大洲駅間(海回り区間)が、予土線、牟岐線の阿南駅 - 牟岐駅間と牟岐駅 - 阿波海南駅間とともに存廃議論の候補に挙げられている。
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