MiG-29K (ミグ29K;ロシア語: МиГ-29К ミーグ・ドヴァーッツァヂ・ヂェーヴャチ・カー) は、RSK「MiG」によって設計された艦載型マルチロール機で、MiG-29の発展型である。
本項では1980年代に完成した«9.31»規格、2010年からインド海軍で運用されている«9.41»規格両方について記述する。なお、この項では各型について«○.○○»という記述の仕方をすることがあるが、これはMiGが用いる製品番号であり、単にMiG-29Kなどと述べただけでは重複する機種があるためである。
MiG-29K «9.31»はソビエト連邦海軍による艦載戦闘機選定のために開発されSu-27K(のちのSu-33)、MiG-27の艦上機型(フックを装備した改造機による陸上テストのみ)と競合したが、Su-27Kが採用されたために試作機が2機完成されるにとどまった。
ソビエト連邦の崩壊によって1992年からは設計局も不況に煽られたが、その後もMiG-29Kの開発研究を独自に続行し、90年代後半になるとインド海軍が艦載機購入を計画、そこへ売り込みをかけるためにMiG-29K開発は再び熱を盛り返すことになった。そうして完成したのがMiG-29K «9.41»であり、2009年からインド海軍への引き渡しが開始している。
1970年代初頭、ソビエト連邦海軍による超音速艦上戦闘機開発の要求に従い、MiG-29K «9.31»の開発は行われた。これに対しミコヤン設計局はMiG-29を基にしてこの要求に答える戦闘機を開発することを決定した。航空母艦上で運用するにあたって、設計局はまず尾部全体を強化しアレスティング・フックを装備した短距離離着陸用の試験機、MiG-29KVPを製作 、1982年8月21日に初飛行させ、艦載化にはエンジンパワーの増強と主翼面積の拡大が必要であることを明らかにした。この結果をもとに設計局は既に開発済みであったMiG-29M «9.15»をベースに発展させ、主翼面積の拡大及び折り畳み機構の付加等艦載機化を行ったMiG-29K «9.31»を完成させた。MiG-29K «9.31»は1991年に完成され、MiG-29M «9.15»同様、MiG-29 «9.12»など既存の量産型に性能面で大きく差をつけていた。
MiG-29K «9.31»の初飛行は1988年7月23日、ウクライナのサーキ飛行場にてトクタル・アウバキロフをテストパイロットに行われた。さらに1989年11月1日、アウバキロフは重航空巡洋艦「トビリシ」(現「アドミラル・クズネツォフ」)での初着艦、初発艦に成功した。Su-27Kも同日にテストを行っている。1989-91年までの間MiG-29K «9.31»は多くのテスト項目を実行した。ソビエト連邦の崩壊により計画は保留され後継のロシア海軍はライバルのSu-33を探求した。ミコヤンは資金不足にもかかわらず1992年以降も作業を進めたが、開発も進まなくなり計画は放置されてしまった。
インド海軍は、ロシアから購入した「アドミラル・ゴルシコフ」を改修して「ヴィクラマーディティヤ」として配備するにあたって、ロシアとの契約からその搭載機をMiG-29Kに決定していた。これはインド海軍が限られたスペースしかない空母で運用するには巨体すぎるのと整備が複雑なのを嫌ったためであった 。
これに向けてRSK-MiGはMiG-29K «9.41»を開発することになるが、これはMiG-29K «9.31»から直接発展したものではなく、MiG-29M (前述したMiG-29M «9.15»とは別の機体で、区別のためにMiG-29M1とも呼称される) を改良したものである。MiG-29K «9.31»のベースになったMiG-29M «9.15»は不採用に終わり、複座練習機型のMiG-29UBM «9.61»も計画のみで生産されなかったが、のちにここから発展した複座のMiG-29M2が開発され、さらに改良・艦載機化したMiG-29KUB «9.47»が開発された。MiG-29M2に対応する単座型がMiG-29M (MiG-29M1) であり、これがMiG-29K «9.41»のベースとなっている。なお、MiG-29M2は他にもMiG-35の母体にもなっている。またMiG-29K «9.41»にはMiG-29K «9.31»のノウハウも濃くフィードバックされている。
2004年1月20日、「アドミラル・ゴルシコフ」のインドへの引き渡しと改修作業について、ロシアとインドが15億ドルで契約したと発表された。これによれば、契約額の半額が空母の改修に充てられ、残りの半分で搭載機のMiG-29K «9.41»とKa-31対潜ヘリコプターを製造するということである。空母「ヴィクラマーディティヤ」にはそれぞれ16機、10機が搭載可能であるとされているが、装備される1飛行隊は12機のMiG-29K «9.41»で構成されるという。
2007年1月22日、ロシアのジューコフスキー飛行場でインド海軍向けに開発されたMiG-29KUB «9.47»が初飛行した。
MiG-29M «9.15»から発展しているため、基本的なレイアウトはこれに準ずる。MiG-29M «9.15»からMiG-29K «9.31»へは、主翼の翼幅を11.36mから11.99mに増加し折り畳み機構を付加、フラップをダブルスロッテッド式に変更、脚機構の強化、アレスティングフックの追加、ヒンジの強化なども行われた。
MiG-29M1及びMiG-29M2から発展したため、外観はMiG-29K «9.31»と大きく異ならず、艦上機への改造についてもノウハウが活かされている。敵レーダーによる捕捉を避けるため、ステルス性向上への策も取られており、機体には電波吸収材がコーティングされレーダー反射断面積は普通のMiG-29の4〜5分の1程度になっているとされる。材料も進歩しており、機体の約15%に複合材料を使用している。
MiG-29K «9.41»/MiG-29KUB «9.47»の作戦行動半径は増槽無しで850km (531 mi)、増槽1本で1,050km、増槽3本で1,300kmであり、増槽を3本装備した時のフェリー距離は3,000km(1,860 mi)である。最大機内燃料搭載量は5,200kgに増加した。1,500L増槽は1本、1,150L増槽は2本まで装備できる。原型のMiG-29がソ連の要求によって前線戦闘機として開発されたため、制限のある行動範囲を受け継いでしまっている。しかし、機首左には給油用引き込み式プローブが装備されているので、必要に応じて空中給油を行い航続距離を伸ばすことは可能である。
基本的にMiG-29M «9.15»と同様である。
基本的にMiG-29M «9.31»と同様であるが、フランス製の「シグマ-95」GPS/INS航法装置及び「トップサイト-E」HMD(Topowel-Fとも、ラファールのために開発されたのと同じもの)、イスラエルのIAI/エルタ製の自己防御システム、インド製の通信装置(UHF/VHF無線通信システム、TACAN近距離無線ナビゲーションシステム、VOR/ILS/MKRナビゲーションシステム)、電波高度計、IFF、Tarang レーダー警報受信機(ELINT)を搭載する。ロシア海軍が運用する型では通信用無線機がポレト社のR-800L2に変わっている。
搭載する多重チャンネル式のOLS-UE赤外線捜索追尾システムは、320x256ピクセルの赤外線センサ、640×480ピクセルのテレビカメラ、レーザー測距儀を統合しており、上方60度、下方15度、左右45度ずつを捜索できる。探知距離は航空目標に対し、ヘッドオンで15km、追尾する状況だと45km程度で(エンジンの排気ノズルから、より多量の赤外線を放射するため)、20kmの距離で目標との距離評定及びレーザー誘導兵器の照準を行える。
固定兵装として左LERX部の付け根に「GSh-30-1」30mm機関砲を1門を装備し、装弾数は150発である。ハードポイントは左右主翼下に4か所ずつ、胴体中心線下に1か所の合計9か所あり、増槽を搭載可能なウェットポイントは機体中心下の一か所、翼下の一番内側の各一か所、計3か所である。機体中心下のハードポイントは増槽にのみ対応している。ペイロードは9か所全体で4,500kgである。MiG-29K «9.31» とMiG-29K «9.41»/MiG-29KUB «9.47»で運用できる兵装に特に違いは無い。
MiG-29Mの場合、全ての兵装はMiG-29SMTと互換性があるとされている。また、増槽の代わりに「PAZ-1MK」給油ユニットを装備することで「バディ給油」能力を持たせることができる。自己防御としてはチャフとフレアを胴体尾部のエンジンナセルの尾部の下に取り付けられた50mm口径のカートリッジを16個のそれぞれ梱包した2つのディスペンサーを装備する。
ロシア海軍向けのMiG-29K/KUBは非公式にMiG-29KR/KUBRと呼ばれることもある。これらについてはインドと外国製の機材が構成より削除されている。
このほか、空母を「ひとつの基地」として運用するにあたって重い問題(艦上機があっても空母から運用できる固定翼の早期警戒機(AEW)を保有していないという点、早期警戒ヘリは有るものの固定翼機に比べると速度や滞空時間などの性能で劣る。)を抱えていたインド海軍のためにMiG-29KUB «9.47»をベースに強力なデータリンクシステムを備えた機体を開発・配備し、AEW機と同じような機能を持たせる計画がある。また、EA-18Gのような電子戦機の開発も検討されている。
2011年6月、アストラハンでMiG-29KUBが墜落し、パイロットが死亡した。
2014年12月4日、モスクワ近郊でMiG-29KUBの204号機が墜落し、パイロットが死亡した。
2016年11月14日、地中海においてアドミラル・クズネツォフに着艦アプローチ中に1機が墜落した。原因は墜落機が着艦する前の機体がアレスティング・ワイヤーの1本を切断したため、墜落した機が着艦する事が出来ず上空待機中に燃料が切れたためであった。なお墜落した機体についてはパイロットの射出時にIFFシステムは自動破壊され機密性に問題はないとの判断や引き上げ費用が高価といった理由から同様に墜落したSu-33ともども引き上げは実施されていない。
2017年2月28日、MiG-29Kが技術的な障害によりマンガルル国際空港に緊急着陸した。
2018年1月、ハンザ基地から訓練に向かうために離陸中のMiG-29Kが出火し墜落、パイロットは無事脱出した。
2019年11月、MiG-29KUBがゴア基地を離陸した後、バードストライクによるエンジンの故障により墜落した。パイロットは無事に脱出。
2020年2月、ハンザ基地から離陸したMiG-29Kが訓練中にゴア沖のアラビア海に墜落した。パイロットは無事に救助された。
2020年11月、ヴィクラマーディティヤから発艦したMiG-29KUBが訓練中にアラビア海に墜落。1名は救助されたが、もう1名は行方不明。11日後パイロットと思われる遺体を回収した。
データはMiG公式サイトなどより。兵装類の弾数は記述がある物のみ。
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