![舟を編む 舟を編む](/modules/owlapps_apps/img/nopic.jpg)
『舟を編む』(ふねをあむ)は、三浦しをんによる日本の小説。女性ファッション雑誌『CLASSY.』に、2009年11月号から2011年7月号にかけて連載され、2011年9月16日に光文社より単行本が発売された。雑誌連載時の挿絵や単行本の装画、文庫のカバー装画は、雲田はるこが担当。2012年、本屋大賞を受賞。
「玄武書房」に勤める馬締光也が、新しく刊行する辞書『大渡海』の編纂メンバーとして辞書編集部に迎えられ、個性豊かな編纂者たちが辞書の世界に没頭していく姿を描いた作品。「辞書は言葉の海を渡る舟、編集者はその海を渡る舟を編んでいく」という意味でこの書名が付いている。執筆にあたって、岩波書店および小学館の辞書編集部の取材を行っている。
2013年、石井裕也監督、松田龍平主演で映画化された。2016年10月から12月までテレビアニメが放送された。2024年2月より、池田エライザ主演でテレビドラマ化され、NHK BS・NHK BSプレミアム4Kで放送された。
出版社・玄武書房では中型国語辞典『大渡海』の刊行計画を進めていた。営業部員の馬締光也は、定年を間近に控えて後継者を探していた辞書編集部のベテラン編集者・荒木に引き抜かれ、辞書編集部に異動することになる。社内で「金食い虫」と呼ばれる辞書編集部であったが、馬締は言葉への強い執着心と持ち前の粘り強さを生かして、辞書づくりに才能を発揮してゆく。
作中では『大渡海』の刊行へ向けて編纂が開始される時代と、それから13年以上が経過した時代(映画版では12年後)が舞台であり、実質的に2部構成である。
担当俳優は実写映画版(2013年版)/ドラマ版(2024年版)の順に掲載
主演は松田龍平と宮﨑あおい。2012年夏に撮影され、2013年4月13日に松竹 / アスミック・エースの配給で公開された。監督は石井裕也。英題は(The Great Passage)。映画版では、物語の開始時点で1995年という年代設定がされている。
2013年9月に日本映画製作者連盟により第86回アカデミー賞外国語映画部門日本代表作品(英題:The Great Passage)に選出されている(ノミネートには至らず)。選出時30歳の石井裕也監督は史上最年少での日本代表選出作となった。日本の映画賞では第37回日本アカデミー賞で最優秀作品賞をはじめ6部門の最優秀賞、第68回毎日映画コンクール日本映画大賞、第38回報知映画賞作品賞、第26回日刊スポーツ映画大賞作品賞などを受賞。このほか監督の石井裕也・主演の松田龍平をはじめとするスタッフ・キャストも多くの個人賞を得ている。
「1995年」。玄武書房で38年辞書一筋の編集者・荒木公平(小林薫)が定年を迎えようとしていた。荒木の仕事ぶりに惚れ込む辞書監修者の松本朋佑教授(加藤剛)は引き留めようとするが、「病気の妻を介護するため」という荒木の意志は堅い。急遽、社内で荒木の後任探しが始まる。なかなかめぼしい人材が見当たらない中、荒木の部下・西岡正志(オダギリジョー)が密かに社内恋愛で同棲中の三好麗美(池脇千鶴)から言語学部の院卒で変人と噂される馬締光也(松田龍平)の情報を仕入れる。名字の通り性格は生真面目だがコミュニケーション能力に著しく欠ける馬締は社内でも浮いていた。一方で言葉に対する卓越したセンスを持ち合わせ、「右」を定義せよという荒木の質問に合格。松本が熱意を燃やす新しい辞書『大渡海(だいとかい)』の編纂を進める辞書編集部に異動となる。
「ら抜き」や「憮然」のように日々変化を遂げる日本語を解説する「今を生きる辞書」を目指す『大渡海』。見出し語が24万語という大規模なものだった。編集に10年以上を要するのが当たり前という新辞書編纂作業は西岡にとっても初めてのことだったが、馬締は逆に情熱を燃やす。辞書編集部の仕事は気の遠くなるような地味な作業を続ける一方で、新たに産まれる日本語を集めるため様々な場所で用いられる言葉の用例をメモするというものだった。松本は合コンに出席して若い女の子たちの使う言葉の用例を集めるなど率先して取り組んでおり、馬締はその姿勢に心打たれつつも、仕事に対する畏れから膨大な言葉の海で溺れる悪夢を見る。同僚の西岡ですら持て余す馬締だったが、十年以上も下宿している大家のタケ(渡辺美佐子)は数少ない理解者で、馬締を「みっちゃん」と呼んで可愛がり趣味の書籍収集に協力して空き部屋を書庫として利用させていた。また、タケの飼い猫「トラ」は馬締に懐いており、持ち帰りの仕事をする馬締の足元で眠るのが日課となっていた。
ある満月の夜、トラが上の部屋で鳴くのを耳にした馬締はタケの部屋を訪ね、そこで絶世の美女・林香具矢(宮﨑あおい)と出会い一目惚れしてしまう。香具矢はタケの孫で板前修業のため京都から東京に出てきて同居を始めたのだった。初めての恋に動揺し、仕事が手につかなくなった馬締を見かねた辞書編集部の面々は、契約社員・佐々木薫(伊佐山ひろ子)の機転で、揃って香具矢の働く料亭を訪れる。香具矢を一目見た西岡は「あの容姿なら彼氏の一人や二人居てもおかしくない」と馬締をからかう。松本は「恋」という言葉の語釈を馬締に担当させる。ある夜、帰宅した香具矢が包丁を研ぐ様に見とれていた馬締はかかってきた電話に応対する。それは香具矢の別れた恋人からのものだった。
数日後、日曜日だというのに部屋に籠もって仕事をする馬締のところに、香具矢の作った煮物を手にしたタケがやってくる。そして、合羽橋に買い物に行きたいという香具矢を馬締に案内させる。熱心に包丁の説明をする香具矢の言葉を馬締は用例集にメモする。買い物を終えた香具矢は「遊園地に行こう」と馬締を誘う。観覧車の中で寂しそうに外を見ていた香具矢は「板前を目指す女っておかしいかな?」とつぶやく。いつもは返答に窮し、もぞもぞする馬締だがこのときばかりは「そんなことはない」と即答。「あなたの作る料理は好きです」と答える。やがて、荒木が退社していく。香具矢への告白を促されていた馬締は「恋文」を書き上げ、西岡に意見を求めるが、西岡は一目見るなり唖然とする。よりによって毛筆による行書体で書かれていた。「戦国武将じゃあるまいし」と呆れる西岡は三好からの電話で飛び出して行く。
社内で『大渡海』の出版中止が取り沙汰されており、その中心となっていたのは村越局長(鶴見辰吾)だった。「恋文」どころではなくなった西岡は「インパクトがあるし、お前に興味があれば読もうとするだろう」と「恋文」を馬締に返した。下宿に戻った馬締は夕食の席で香具矢に「恋文」を渡す。辞書編集部は「外部発注の既成事実により出版中止を撤回させる」という西岡の策により発注先の学者・文化人に電話攻勢をかけて『大渡海』を喧伝。出版中止は社のメンツに関わる状態にした上で村越に談判しに行く西岡に馬締も同行を申し出る。村越は辞書編集部の赤字体質に苦言を呈し、「出版の頃には電子辞書にとってかわられている」と語り、『大渡海』の編纂を継続するなら、今後、辞書・辞典と名のつく仕事は全て辞書編集部が担当せよと無理難題をふっかけるが、馬締は「やります」と即答する。村越は折れたものの、その後西岡だけが呼ばれ、夜半に編集部に戻った西岡は村越からの話をはぐらかす。
下宿に戻った馬締は帰宅する香具矢からの返答を待っていたが香具矢はひどく怒った様子で帰宅する。「恋文」を差し出し「これがあたしに読めると思う?」と馬締を詰る。内容が気になった香具矢は店の大将の協力で「恋文」を読んで貰ったもののその気恥ずかしさに腹を立てていたのだった。「大事なことだからちゃんと言葉にして」という香具矢に馬締は勇気を振り絞り「好きです」と伝える。香具矢は「あたしもよ」と答えるのだった。馬締が語釈を任された「こい【恋】」は「ある人を好きになってしまい、寝ても覚めてもその人が頭から離れず、他のことが手につかなくなり、身悶えしたくなるような心の状態。 / 成就すれば、天にものぼる気持ちになる。」となる。
一方、西岡は人知れず煩悶していた。仕事帰りに西岡は村越の出版中止撤回の条件として「予算縮小のため二人のうちどちらかを人事異動させる」と伝えられ、「自分が宣伝部に異動する」と馬締に打ち明ける。西岡の対外交渉力など自分にない力を認める馬締は「それは困る」と伝えるが、「お前から『大渡海』を取り上げられない」と胸中を明かす。もとは嫌々だった西岡も『大渡海』に情熱を持ち、馬締に友情も感じるようになっていたのだ。そんな西岡を心配する三好からの電話を取り上げた馬締は西岡と三好を下宿に招く。その席で酔った西岡は三好との結婚を宣言し、酔い潰れて馬締の部屋に泊まるのだった。
それから12年後。馬締と香具矢は入籍。二人を結びつけたタケとトラは他界していた。馬締が主任となった編集部には妻を喪った荒木が嘱託として戻っていた。いよいよ出版を翌年に控えて忙しくなる辞書編集部に岸辺みどり(黒木華)が異動してくる。元はファッション誌の編集者だった岸辺は5度目の校正に入ろうという『大渡海』編集の仕事と曲者揃いの編集部に辟易していた。それでも仕事熱心な岸辺が残業していると宣伝部の西岡が訪ねてくる。西岡は岸辺がチェック中の原稿から「ダサい」という単語を引っ張り出す。そこには用例として「酔った勢いでプロポーズするのはダサい」と書かれていた。西岡はそれが自分の書いた解釈で「用例は実体験に基づく」と打ち明ける。自分の言葉が辞書に載るという醍醐味を知った岸辺は辞書編集者としての自覚に目覚め、熱意を燃やすようになる。校正作業の合間にも日本語は増え続けている。馬締と松本はファーストフードで女子高生たちの会話にも耳を澄ませるなど用例収集を続けていた。辞書編集部は多くの大学生をアルバイトに雇い入れ、連日詰めの校正作業に追われていた。陣中見舞いにやってきた村越は「『大渡海』の出版が翌年3月に正式決定した」と伝える。西岡もその宣伝に奔走していた。
夏が過ぎ、松本と共に香具矢の店を訪れた馬締は松本の体調が思わしくないことを知る。その一方、編集部では学生からの指摘で単語の欠落が発覚する。急遽、校正作業は一時中断となり、他にも単語抜けがないかのチェック作業をすることになる。泊まり込み作業のため帰宅した馬締のもとに松本が入院したという連絡が入る。馬締の代理で見舞いに出向いた香具矢は松本の妻千恵(八千草薫)と交流を深める。検査入院という名目だったが、馬締は荒木と共に退院した松本を訪ね、体調は芳しくないと悟る。余命が尽きようとしている松本のためにも『大渡海』の完成を急ぐ馬締は正月もないほど仕事に没頭するが、雪の降る日、版の完成を待たず松本は他界する。
馬締と荒木の最終チェックが完了し、『大渡海』の原稿は完成。疲労困憊だった学生たちも大事業を為し得た悦びにわきかえる。3月、『大渡海』出版を祝う華々しい披露パーティが協力者たちを招いて催される。だが、馬締の表情は晴れない。最大の功労者である松本は遺影となって宴席の片隅に居た。馬締と同じ思いの荒木は1通の封書を差し出す。それは死の間際の松本が荒木に宛てた手紙だった。そこには荒木と馬締への感謝の言葉、仕事を完結できなかった無念さ、辞書の編纂という仕事に携われたことに対する喜びが書かれていた。翌日からは『大渡海』の改訂作業が始まる。馬締と荒木のポケットには用例集の束が詰め込まれていた。後日、馬締と香具矢は松本の墓前に報告するため千恵を訪ねる。東京に帰る二人はタクシーを止め、しばし松本の愛した海に見入る。「これからもよろしくお願いします」と感謝を表す馬締に香具矢は苦笑するのだった。
日本では全国237スクリーンで公開され、動員数ランキング(興行通信社、文化通信社、配給元など調べ)で初登場3位となり、土日2日間は20代 - 60代の女性を中心に動員9万3,065人、興収1億1,374万4,400円を記録した。公開3週目時点のランキングでは10位で、累計動員42万1,703人、累計興収4億9,672万1,550円となっている。その後、観客動員は68万人を、興行収入は8億円を超えている。最終興収は8.27億円。2014年2月8日から、数々の映画賞受賞を受けて『凱旋公開』が全国で行われた。
香港では2013年8月22日から公開され、当初限定公開映画として2スクリーンで封切られたがのちに4スクリーンに拡大され、翌年までロングランの予定で上映されている。現地の評論や口コミなどによりヒットしたとされ、同年11月10日時点で興行収入は213万香港ドル(約2735万円)を突破、観客動員は3万7000人以上となり、同年度に限定公開された日本映画の中ではトップの成績である。
韓国では2014年2月に公開された。
日本国外の映画祭では第37回香港国際映画祭(2013年3月)、第17回プチョン国際ファンタスティック映画祭のビジョン・エクスプレス部門(2013年7月)、第57回ロンドン映画祭(2013年10月)ラフ部門で上映された。2014年には第25回パームスプリングス国際映画祭に出品された。
2016年10月より12月まで、フジテレビ「ノイタミナ」枠にて放送された。作内ではサンリオとのコラボで辞書を擬人化したキャラクターが登場するミニコーナー「教えて!じしょたんず」も放送された。辞書出版社とのタイアップで、オープニングには実在の辞書11冊が週替わりで登場した。
2016年10月7日発売の『ITAN』2016年34号より、テレビアニメのキャラクター原案を担当する雲田はるこ作画によるコミカライズが連載され、単行本(上・下巻)が刊行された。
『舟を編む 〜私、辞書つくります〜』(ふねをあむ わたし じしょつくります)のタイトルで、2024年2月18日から4月21日までNHK BSプレミアム4Kの「プレミアムドラマ」で放送された。主演は池田エライザ。今作の年代設定は2017年としている。
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