![ダイコン ダイコン](/modules/owlapps_apps/img/errorimg.png)
ダイコン(大根、蔔、学名:Raphanus sativus var. hortensis)は、アブラナ科ダイコン属の越年草で、野菜として広く栽培される。
地中海または中央アジアの地域が原産といわれており、日本、中国、ヨーロッパなど各地で主に肥大した根を食用とするほか、葉も食材となり、種子から油を採ることもある。根の部分は淡色野菜、葉は緑黄色野菜である。
多くの品種があり、根の長さ・太さなどの形状が多様。日本では白い皮の品種が主流だが、赤、緑、紫、黄、黒などのさまざまな色があり、地域によっては白よりも普通である。
日本においても品種・調理法とも豊富で、世界一大きくて重い桜島大根、世界一長い守口ダイコンなどの種類があり、日本人の食卓(鍋料理・おでん・沢庵等)には欠かすことのできない野菜となっている。葉はビタミンAを多く含み、青汁の原料として使われる。汁はビタミンCやアミラーゼを多く含む。野菜としての位置づけにおいては、春の七草の一つ「すずしろ」であり、薬味や煮込み料理にも使われるなど、利用の幅は広い。薬草としても扱われ、消化酵素を含有することから、血栓防止作用や解毒作用がある。
古くは「大きな根」の意味で「おほね」(現代かなづかいで書けば「おおね」)と呼び、「大根」の字を当てていたものが、いつしか音読みされて「だいこん」で通るようになった。したがって「大根」は日本以外では通用しない。日本のダイコンは根茎部分が白い品種で、春の七草などにおいてはすずしろ(清白)とも呼ばれる。
中国語名は蘿蔔(luóbo ルオポ、簡体字:萝卜)または白蘿蔔(báiluóbo パイルオポ、白萝卜)。欧米では一般的ないわゆる radish とは種類が異なるため、英語:daikon radish、フランス語:radis blanc、イタリア語:ravanello giapponese のように形容語を冠して区別している。ちなみに radish, radis などはラテン語で根を意味する radix に由来する。
学名においては、標準学名が Raphanus sativus var. hortensis 、広義には Raphanus sativus 、シノニムは、Raphanus acanthiformis や、Raphanus sativus var. longipinnatus としている。
野菜として栽培される越年草。いわゆる大根とよばれる肥大部は茎と根からなり、品種によって地上に伸び上がるものと、ほとんど地中にあるものがある。根出葉は束生し、倒披針形で羽状に深く裂ける羽状複葉で、頂小葉は大きく、ふつう粗い毛がある。太い主根は主軸が肥大して食用となる。
花期は春で、地上茎が約1メートル (m) ほど立った先に総状花序をつけ、アブラナ属と似た白色または淡紫色の十字状の花をややまばらに付ける。果実は長さ4 - 6センチメートル (cm) で、多数のくびれがあり、くびれ毎に1個ずつ赤褐色の種子が中に入り、種子数はアブラナ属より少ない。
茎は、葉の付け根の低い三角錐部分で、食用は可能だが生食目的での利用はされない。また、一般的に根と呼ばれる食用部分のうち地上部分は、発生学的には根ではなく胚軸に由来する中間的な性質を持っている。青首大根では特に目立ち、ジャガイモ同様、光に応じて葉緑体を発達させる茎の性質を示している。
茎、胚軸、根の区別は道管の位置で区別できるが、ヒゲ根(二次根)でも見分けられる。根の部分は両側一列ずつ二次根が発生し、店先のダイコンではその痕跡がくぼんだ点の列として観察できる。
アブラナ属のカブ(蕪)では、丸く肥大する食用部分が胚軸で、根はヒゲ根となって食用にされない。
ダイコンの野生種は見つかっておらず原産地は確定されていないが、地中海地方や中東など諸説ある。栽培種は中央アジアが起源地のひとつと考えられている。紀元前2200年の古代エジプトで、今のハツカダイコンに近いものがピラミッド建設労働者の食料とされていたのが最古の栽培記録とされ、その後、ユーラシアの各地へ伝わる。中国では西城から伝わったとみられ、紀元前4世紀にはすでに記録がある。ヨーロッパ各地への普及は、15世紀になってからイギリスで栽培されるようになり、フランスでは16世紀ごろから栽培が始められた。
日本には弥生時代には伝わっており、奈良時代の歴史書『日本書紀』にも記され、仁徳天皇の歌に「於朋泥」(おほね)として登場するのが最も古い記録である。平安時代中期の『和名類聚抄』巻17菜蔬部には、園菜類として於保禰(おほね)が挙げられている。一般に食べられるようになったのは江戸時代からで、江戸時代前期にはいくつかの品種が成立し、その栽培法が確立しており、関東の江戸近郊である板橋、練馬、浦和、三浦半島辺りが特産地となり、その中で練馬大根は特に有名であった。凶作時や冬場の保存食としても重要で、漬物や切り干しなどの加工法が地方ごとにさまざまに工夫されていった。
栽培種も変種 R. sativus var. longipinnatus として扱われるが、原種ははっきりしていない。染色体はn=9で、アブラナ属の多くの野菜と同様自家不和合性を持ち、交雑しやすい。変異を生じやすいアブラナ科に属する上、気温適応性の幅も広いため、品種が多い。根茎の色も多様で、外皮も内部も白い種類をはじめ、外皮が緑色で内部が白色の種、外皮が赤色で内部が白色の種、外皮も内部も赤色の種、外皮が黒く内部が白色の種などがある。その大きさも幅があり、重さ30kgを超える桜島大根のような種から、わずか10g程度のハツカダイコン(ラディッシュ)まである。
遺伝的研究から、日本のダイコンはヨーロッパ系統、ネパール系統とは差が大きく、中国南方系統に近い事が確認されている。
日本の東北大学などは世界各地のダイコン500品種のゲノム情報を分析・公開した。その研究によると、各品種は4つのグループに大別され、日本産は独自のグループを形成していることが判明した。
なお、アカザ科のテンサイ(甜菜)を形状と用途から「サトウダイコン」(砂糖大根)と呼ぶが、テンサイはアカザ科フダンソウ属であるのに対して、大根はアブラナ科ダイコン属と目レベルで異なる縁遠い種である。
色が白くクビが青い青首大根が日本で最も多く出ている品種であるが、日本各地には在来種が数多くあり、赤や赤紫の種や、その土地ならではの大根を使った漬物など名産品もある。特に九州南部は独自性が強いとされている。桜島大根や三浦大根、練馬大根などは、サイズが不揃いで流通に不都合な面があったため、全国的に出回る量は少ない。
日本の在来種は、1980年の文献には、全国で110品種が記録されているが、都市部の人口集中によって流通が発達したことに伴い、青首大根などの一部の品種が大半を占めるようになり、在来種の衰退が著しい。しかし、練馬、三浦のような長根種から、桜島、聖護院のような丸大根、守口のような特に細長いものや、辛味の強い品種などの特徴がある地方品種が今も守られている。
栽培、統計上は春だいこん、夏だいこん、秋冬だいこんに区分され、秋冬が全体の7割を占め、春と夏が残りを分け合う。冬野菜の代表格とも評されているが、夏場は北海道や東北地方でも作られるため、1年を通して出回っている。冬は暖地、夏は寒冷地の出荷量が多く、季節ごとに栽培地に適した品種が出荷される。
全国的に生産されているが、収穫量が多いところは千葉県、北海道、青森県、神奈川県で、4道県合わせて全国生産量の4分の3以上を占める。岩手県や茨城県、四国の徳島県、九州の宮崎県、鹿児島県も主要産地に挙げられている。平成22年度生産量は全国で117万トン。日本のダイコン生産量は作付面積、収穫量とも減少傾向にある。
栽培時期は、晩冬に種をまき、春に収穫する「春どり」、春に種まきして初夏に収穫する「初夏どり」(春まき)、初秋に種まきして晩秋から冬のあいだに収穫する「秋どり」(秋まき)の作型がある。秋まきのほうがとうが立ちにくく作りやすい。栽培適温は15 - 25℃とされ、連作することができる。移植を嫌うことから植え替えはできないため、畑に直接種をまいて、間引きながら育てる。畑となる土壌に石などが混じっていると根がまっすぐに伸びないため、深く耕して石を取り除いておくことが重要になる。栽培はやさしい方であるが、輪作年限は2 - 3年とされる。
畑を耕したら畝幅70センチメートル (cm) 、高さ15 cmぐらいの平畝をたてる。播種する前の畑が痩せている場合、堆肥をすき込むが、それ以外は元肥は施さないでおく。播種は、畝の中央にまき溝を作り1カ所に5粒ずつ種をまき、覆土したら鍬で鎮圧する。発芽したら2回に分けて間引きを行い、土寄せを行いつつ追肥も3 - 4回に分けて行う。1回目の間引きでは葉の形がよいものを残し、2回目の間引きでは葉の勢いがあるほうを抜くようにするとよい。特に2回目の間引きのころは、まっすぐに根が伸びていないダイコンのほうが葉の勢いがよくなるためであり、結果的に形のよいダイコンを畑に残すことになる。また間引いた葉は、葉ダイコンとして青菜と同様に食べることができる。根茎が生長して太ってきたら土から首の部分が出てきて収穫期を迎え、首の太さをみて、首の部分を持って抜き取っるように収穫する。品種にもよるが、収穫が遅れると鬆(す)が入ったり、根茎の表面に亀裂が入る場合もある。根茎の内部がスカスカになる鬆入り(すいり)現象は栽培条件と品種が大きく影響している。根茎の急激な肥大に対し細胞の増殖が追従出来ないと生じ易いと報告されている。
ダイコンは、春どり、初夏どりよりも秋どり(秋まき)のほうが防虫害が少ないので作りやすい。しかし、秋どりでも残暑が厳しかったり、蒔き時期が早く気温が高い条件のままだと、ダイコンサルハムシ(成虫)、キスジノミハムシ(幼虫)、カブラハバチ(幼虫)の食害を受けることがある。アブラナ科のダイコンは、コンパニオンプランツとしてセリ科のニンジンやキク科のレタスなどと混植すると、害虫を寄せ付けにくくする効果がある。
大根おろしやサラダで生食したり、煮たり漬物にしたりして食べたりと馴染みのある野菜で、肥大した根茎は淡色野菜、葉は緑黄色野菜に分類される。野菜としての旬は11 - 3月で、特に冬の大根は甘味が増す。大根は皮に傷がなくて光沢があるものが良品とされ、葉は鮮やかな緑色でみずみずしいものがよい。栄養面では、ビタミンC、カリウム、カルシウム、食物繊維のほか、デンプンを分解する消化酵素を含む。
調理法で、大根の皮を剥くときには皮の下の筋が固いため、やや厚めに剥く。煮物にする場合には下茹でをすると苦味が取れ、米のとぎ汁か米を加えた熱湯で茹でると色が白く仕上がる。大根料理の幅は広く、刺身のつま、膾、大根おろしにして天ぷらや焼き魚などに添える、煮物、酢の物、汁の実などあらゆる料理に向いている。葉は漬物や炒め物に、皮は天日干しして炒め煮などに利用する。
主に生食または加熱調理される。保存用に漬け物、乾物とされるほか、辛みを生かして香辛料ともなる。辛み成分はアリルイソチオシアネート といい、からしやマスタード(シロカラシ由来を除く)と同じ成分である。
品種によって一概には言えないものの、たとえば青首大根は部位によって味わいが違うといわれ、クビとよばれる葉に近い部分は汁が多くて甘味があり、サキとよばれる先端部分は汁が少なく辛味がある。このため好みにもよるが、クビの部分は生でサラダや大根おろしに、中央部は固いことからおでんやふろふき大根などの煮込み料理に、またサキは炒め物や味の濃い料理、刻んで汁の実などというように、部位によって特質に合わせた使われ方もなされている。
栄養価が高く、春の七草のスズシロ(清白)でもある。おひたし、味噌汁の具、漬物として用いられる。炒め物にして食べると栄養の吸収が良いといわれる。また、カブの葉同様、刻んで飯に炊き込んだものは菜飯となる。
日ごとに葉が枯れてきてしまうため、入手できたら新鮮なうちに切り落として調理する方がよい。灰汁(アク)があるため、細かく刻んだら水につけてアクや青臭みを抜いて調理する。
大根(根茎部)は、約95%が水分で、炭水化物が少量含まれるだけで、タンパク質も脂質もわずかで、熱量は100グラムあたり18キロカロリー (kcal) と極めて少ない。ごく少量の炭水化物には、ブドウ糖、蔗糖、果糖などの甘味成分が含まれていることから、加熱調理すると辛味が消えて、わずかな甘味を感じることができる。ビタミン・ミネラル類は、脂溶性ビタミン(ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK)を除けば、全体的にバランスよく含んでいて、皮を剥かないですりおろしたものであればビタミンC、カリウム、食物繊維を豊富に含む。特にクビに近いところでは、ビタミンCや食物繊維が豊富である。また一方では、取り立ててたくさん含んでいる栄養素は見当たらず、食物繊維もそれほど多くはないが、冬場はたくさん食べる機会が多い食材であるから、食物繊維のとてもよい供給源になっているという評価もされている。
根茎には消化酵素であるアミラーゼ(別名:ジアスターゼ)、タンパク質を分解するプロテアーゼを多く含み、アミラーゼはデンプンの消化促進に役立つ。アミラーゼは消化不良を解消し、胃酸の出を調整して胃もたれや胸焼け防止の働きがあるといわれる。これら栄養素は、加熱や酸化に弱い性質があるため、大根おろしやサラダなどにして、生ですぐに食べる方が効果的に摂取できる。
葉の部分は緑黄色野菜で、β-カロテン(ビタミンA)、ビタミンC、カルシウム、カリウム、鉄分などが豊富に含まれている。カルシウム、鉄、カリウムなどのミネラル類は、根茎部の2 - 10倍も含んでおり、ビタミン類では根には全く含まれていないカロテンが、ホウレンソウと同じくらい含まれている。野菜から摂りにくいとされるビタミンEも豊富で、ビタミンCも根茎部の数倍になる。
加工品である切り干し大根は、100グラムあたりの栄養素量が多いところから「栄養の塊」と紹介されることがあるが、水分量が少ないためそのように見えるだけで一度にたくさん食べる機会がないので、過剰な期待はしないほうがよいとも言える。また、大根の芽を摘んだ貝割れ大根の場合では、ビタミン、ミネラルが豊富な緑黄色野菜であり、洗えばすぐに食べられるので、手軽で栄養補給に役立つ食材といわれる。
葉付き大根はそのまま置くと、葉に養分がとられて栄養価が下がり、水分が失われ根にスが入るので、すぐに茎の根元(クビ)から葉を切り落として、根は切断面をラップで密封して冷蔵庫に立てて保存するとよい。葉は、その日のうちに水にさらすか、茹でるなどして、水気を切ってから保存袋に入れて冷蔵保存する。
畑のダイコンは、晩秋に霜が降りて葉が枯れるころになっても収穫せずに置いておくと、土から出ている首の部分が凍って痛んでしまう。畑に植えたまま貯蔵したい場合は、ダイコンの首が土ですべて埋まるように土寄せするか、一度ダイコンを抜き取って痛んだ葉だけを取り除き、畑に穴を掘ってダイコンを斜めに立てかけるように並べて、葉だけを地上に出して埋めておく方法がある。雪の多い地域では雪中貯蔵も行われており、垂直に置く貯蔵法や雪中傾斜置き貯蔵などがある。
ダイコンが多く収穫できたときには、干し大根を作っておけば保存性も高まり、栄養価も増す。たくあん用の細長い「八州」などの品種が向いているが、ふつうの生食用の大根でも干し大根は作れる。干し大根は、泥をよく洗い落としたダイコンを2本ずつ茎のほうで束ねて軒下に吊しておき、10 - 20日ほどで吊ったダイコンが曲がるようになったら漬け込みの適期を迎える。たくあん用のほか、半生くらいで浅漬けにしたり、切り干し大根としても利用できる。
いわゆる大根の部分(根茎)には、ヒドラドペクチン、アデニン、ヒスチジン、アルギニンを含んでおり、葉にはシスチン、アルギニン、リジン、精油などを含んでいる。根にはアミラーゼやオキシターゼという酵素が含まれ、アミラーゼは米などのデンプンを分解して胃もたれ、胸やけを解消するなど胃腸の働きを正常にし、オキシターゼは魚の焼け焦げに含まれることがある発がん性物質を解毒すると考えられている。辛味成分になっているイソチオシアネートは、肝臓の解毒作用を助け、がんの発生を抑制するといわれている。
薬用としての採集時期は11 - 12月ごろで、根茎も葉の部分も薬用にできる。薬用に天日で乾燥した種子は莱菔子(らいふくし)、生の根茎は莱菔(らいふく)とも称している。種子は身体を温める作用、根には身体を冷やす作用がある。
民間療法で、消化不良や食欲不振のときに、大根おろし汁を盃1杯ほど、朝夕2回食後に飲むか、食欲がないときは食前に飲むとよいといわれ、二日酔い、発熱、吐き気、胃弱のときは、皮付きの大根で大根おろしを作り、1日200 - 400 ccほど食べるとよいとされる。扁桃炎によるのどの痛みは、大根おろし汁でうがいして、さらにおろし汁で温湿布する。打ち身、捻挫などの打撲傷で腫れがあるときには、大根おろし汁で冷湿布して腫れを引かせる。大根おろしを水飴などと一緒に湯飲みに入れて、湯を注いで1日数回飲めば、たんきり、咳止めなどに効果があるといわれる。
種子は1日量3 - 5グラムを400 ccの水で煎じて3回に分けて服用すると、咳、食べ過ぎに効果があるといわれる。
風通しのよいところで陰干しにした葉は浴湯料に使え、刻んで布袋に入れて風呂に入れる干葉湯(ひばゆ)にして、冷え症、神経痛、保温に役立てられる。
大根は、生でも煮ても焼いても消化が良く、食当たりしないので、何をやっても当たらない役者を「大根役者」と呼ぶ。同じ理由で、なかなか当たりを打てない野球の打者を「大根バッター」とも呼ぶ。また極端なダウンスイングのことを大根おろしに掛けて「大根切り」という。
東京農業大学の応援歌「青山ほとり」は一般に「大根踊り」の名で知られている。
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