![カタパルト カタパルト](https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/b/bc/F-14D_Tomcat_on_USS_John_C._Stennis.jpg/400px-F-14D_Tomcat_on_USS_John_C._Stennis.jpg)
カタパルト (英:Aircraft catapult) は、艦艇(現代では主に航空母艦)などから航空機を射出するための機械である。また宇宙船や架空のロボットなどを射出する装置もカタパルトと呼ばれる。射出機(しゃしゅつき)とも呼ばれる。また、地上から滑走路を使わずに離陸する場合に使われる、動力つきの発射台もカタパルトと呼ばれ、世界初の動力有人機ライトフライヤー号も、杭打ちやぐらとカウンターウエイトの組み合わせで機体を撃ち出すカタパルトを用いて飛行に成功している。
カタパルトには火薬式、油圧式、空気式、蒸気式、電磁式のものがある。開発初期の試作においてはスプリング式やフライホイール式が実験されたこともある。航空機が飛び立つための充分な長さの滑走路や飛行甲板が無い場合などにカタパルトにより射出し、離陸速度を確保した。飛行甲板自体の長さが発艦に足りる長さであっても、カタパルトをあわせて利用することで甲板後部により多くの航空機を並べて待機させ、作戦に同時投入することも可能となるメリットがある。
現代のカタパルト付きの空母で運用されているジェット機(CATOBAR機)は重量があり失速速度も高いので、カタパルト無しでの発艦は考慮されていない。
航空機が発達し水上機が実用化された1920年代から、軍艦に水上機を搭載し偵察・哨戒に用いる動きが各国海軍で起こった。しかし当初は航行する艦上から水上機を発艦させる手段がなかったため、艦を停止して水上機をデリックで水面に下ろす必要があった。この不便を解消するため、飛行甲板を持たない戦艦・巡洋艦の上から水上機を直接発艦させる手段としてカタパルトの研究が行われた。数々の試作型を経て実用的なカタパルトが開発され、第二次世界大戦の始まった頃には多くの戦艦・巡洋艦がカタパルトと水上機を装備するようになっていた。戦艦・巡洋艦など砲撃をその主目的とする艦の搭載水上機には、それ以外にも弾着観測という任務があり、大型艦の多くがカタパルトを搭載していた。このほか、水上機を多数載せカタパルト発艦させる水上機母艦という専門の艦種も生まれた。また、潜水艦のような小型艦でもカタパルトを搭載すれば水上機の運用ができた。
大日本帝国海軍では、火薬式のカタパルトを巡洋艦以上の艦艇に搭載し、戦艦には弾着観測を目的とした二座水偵(水上偵察機)を、巡洋艦には偵察を目的とした三座水偵を搭載するという運用をしていた(カタパルトを2基装備し格納庫が広かった大和型戦艦には両機種とも搭載された)。また艦隊全体として偵察は巡洋艦の水偵で行うこととし、空母艦載機を偵察に積極的に用いることは後年まで行なわれなかった。なお改装で航空戦艦となった伊勢型戦艦では、22機の艦載機をカタパルト2基を用いて1分間隔で射出する計画で、航空母艦の補助戦力として開発された給油艦「速吸」においても同様の火薬式カタパルトが装備された。しかし瞬間的に爆発的な加速を行う火薬式カタパルトは機体およびカタパルト本体への負荷が大きく連続射出や魚雷装備など兵装満載状態の艦攻の発進には不向きであり、火薬式に変わる全備状態の艦載機の連続射出が可能なカタパルトの開発にも失敗したため、大日本帝国海軍の航空母艦にカタパルトは全く装備されなかった(空母「加賀」には装備の準備として甲板に溝が設けられたが装備は実現しなかった)。構造上圧搾空気を多用する潜水艦では、圧縮空気式のカタパルトが用いられ、伊400型等多くの潜水艦で運用されていたが、水上艦艇では一部の艦艇に実験的に装備されるに留まっていた。
ドイツでは、蒸気カタパルトの実用化に世界で初めて成功し、CAMシップに酷似した、大型水上機や飛行艇を運用する為のカタパルト艦を運用していた。
イギリスでは、商船を敵機の攻撃から守るために、商船に1機の陸上用戦闘機のみを発射可能なカタパルト1基を装備したCAMシップを建造した。CAMシップでは発艦した戦闘機は母艦に帰還不能でパイロットはしばしば死亡し、運用上の柔軟性もなかったことから、商船に簡易な飛行甲板を設けて空母状にしたMACシップの登場により姿を消した。MACシップにはカタパルトは装備されなかった。
アメリカ海軍におけるカタパルトの歴史に関しては、次項で詳述する。
第二次世界大戦終結後、ヘリコプターの発達により、航空母艦以外の艦艇に固定翼機を搭載する必要性は急激に低下していき、これに伴って、それらの艦艇からカタパルトは急速に姿を消した。例えばアメリカ海軍では、1949年末までに、戦艦・巡洋艦に搭載されていた水上機はすべてHO3Sなどの艦載ヘリコプターに換装された。
陸上においてもカタパルトを使用すれば、離陸用の滑走路が必要なくなる(他にゼロ距離発進という方法もあり、ゼロ距離発進にカタパルトを併用する場合もある)。その場での着陸を必要としない場合、カタパルトの使用は有効な手段になる。
陸上におけるカタパルトの使用事例としては、第二次世界大戦中のドイツ空軍においてV-1飛行爆弾の地上発射に用いられ実戦に使用された。V1の発射に使われたカタパルトは、過酸化水素から発生する水蒸気を使用するヴァルター機関であり、最初期のスチームカタパルトでもある。C字型のパイプとシャトルによる構造も現在のスチームカタパルトに近いものだが、シールは使用ごとに交換する必要があった。大日本帝国海軍の特攻機桜花の改良型(エンジンのジェットエンジン化・航続距離大幅延伸)である桜花43型の地上発進用に千葉県三芳村の知恩院や滋賀県比叡山延暦寺にカタパルトが設置されたがこちらは実戦には使用されなかった。ベトナム戦争では、南ベトナムに展開したアメリカ海兵隊航空部隊が、初期においてカタパルトを使用していた。
陸上で行われるグライダーの運用においても、複数のゴムバンドを束ねた「ゴム索」をカタパルトとして用いるゴム索発航という離陸方法があり、民間でのスカイスポーツを中心に第二次大戦前から行われている。また、模型航空の分野においては、同様の仕組みを模型サイズにスケールダウンさせたゴムカタパルトが使用されている。
アメリカ海軍は空母の実用性を探るため実験的に改装されて生まれたアメリカ最初の空母「ラングレー」において火薬式カタパルトを装備しており、1922年11月18日に世界で初めて空母からカタパルトで発艦することに成功した。ただし空母用カタパルトとして実用的なものではなかったため1928年に撤去されており、ラングレー自身も1936年に水上機母艦に再度改装された。続くレキシントン級にはフライホイールとクラッチを組み合わせたTypeF MkIIカタパルトが装備されたが、このカタパルトは臨時に水上機を飛行甲板上から発艦させる必要が生まれた時のためのものであり、艦上機の発艦用ではなかった。
艦上機発艦用のカタパルトは「レンジャー」・ヨークタウン級に油圧式のものが装備されたが、ヨークタウン級では太平洋戦争開戦後に低出力で実戦に不向きとして一旦撤去されている。実戦で実用性のある改良型油圧式カタパルトが装備できたのはエセックス級からであり、後にF6Fなど大型の新型機を運用するようになった際に「エンタープライズ(CV-6)」にも再装備された。エセックス級はカタパルト非搭載の空母に比べて、迅速に多数の航空機を緊急発艦させる事が可能であり、大型で重量の増した新型機の実用的な発艦も可能となった。また、正規空母のみならず、小型で飛行甲板が短く、また、低速な護衛空母においても、搭載されたカタパルトは新型機の運用を可能にした。
ただし現在のカタパルトに比べれば低出力で連続使用の限界等もあり、正規空母においては全ての搭載機をカタパルトで射出する事は不可能であったが、それでもカタパルト非搭載の日本海軍に比べて、運用上の大きな利点となった。カタパルトさえあれば、多数の機体を甲板に出して、短時間で全機を発艦可能になる。最初にカタパルトで射出可能な分だけ機体を発艦させれば、あとは甲板上に余裕が生じるため、残りの機体は自力滑走で発艦可能になるからである。軽空母・護衛空母の大量建造と相まって、アメリカ海軍空母に装備されたカタパルトは戦局に大きく寄与した。
ソビエト連邦海軍が1977年から黒海沿岸のサキ飛行場に建造した艦上機科学試験シミュレータ(ニートカ)には、スキージャンプ台やアレスティング・ギアとともに、全長90メートル、直径500ミリのカタパルトも設置されていた。また1143型航空巡洋艦(キエフ級)と同型のボイラーも設置されており、圧力64 kgf/cm2 (910 lbf/in2)、温度470 °C (878 °F)の蒸気を1時間に115トン供給することができた。
ソ連国内には前例のない多くの技術開発が必要だったために開発は難航したものの、1986年より、試作機「スヴェトラーナ・マヤーク」(«Светлана-Маяк»)による試験発射が開始された。このカタパルトは、技術的には実用化の域に達しており、キエフ級に続く重航空巡洋艦(TAvKR)では、ここで開発されたカタパルトとアレスティング・ギアを導入したCATOBAR方式が採用される計画とされていた。しかし政府・軍上層部にはSTOVL方式やヘリ空母への支持が根強かったために、結局、実際に建造された「アドミラル・クズネツォフ」ではカタパルトの導入は棄却され、代わりにスキージャンプ台を採用するように変更された。これによって、CTOL方式の艦上機をスキージャンプで発艦させ、着艦時にはアレスティング・ワイヤーで停止させるという短距離離陸・拘束着艦(STOBAR)方式が開発された。
次級ウリヤノフスクではカタパルトが搭載されることになったが、ソ連崩壊によるウクライナの独立により資金供給は途絶え、建造中止によりスクラップとして解体された。一方、「クズネツォフ」の後継となるロシア将来空母では電磁カタパルトの装備が予定されており、2014年4月にネフスキー設計局総取締役セルゲイ・ウラソフ氏により開発が実施されていることが明かされている。
中国は1990年代初めには蒸気カタパルトと電磁カタパルトシステムの開発作業を行っていることをいくつかの外国メディアが指摘している。オーストラリアの退役空母「メルボルン」をスクラップとして購入し、備え付けられていた蒸気カタパルトを回収・研究したとされる。また、ウクライナよりニトーカに建設中だったソ連製の蒸気式カタパルトの技術を習得しているとロシアは推測している。さらに、アメリカの大手防衛産業企業であるL-3 コミュニケーションズの子会社Power Paragonのエンジニアで中国系アメリカ人のチ・マクにより、電磁式カタパルトの技術を不正に入手したとされている。
2013年8月には興城の中国海軍艦載機基地の建設中の3番目の滑走路に2条のカタパルトらしき施設が衛星写真で確認されており、蒸気カタパルトではないかとカナダ軍事専門誌・漢和ディフェンスレビューは推測している。また、2014年1月には中国が電磁式カタパルトの試験機テスト設備を建造していると発表されている。
2015年9月上旬には黄村基地に電磁カタパルトと蒸気カタパルトと推測されるものの設置が開始された。また同年11月に開催された中国国際工業博覧会では中国工程院による電磁式カタパルトの模型が公開された。2016年6月20日に捕捉された画像によると、黄村基地の試験設備において大きな進展が見られたことを示されている。同年10月17日から撮影された写真には、2つのカタパルトの背後にJ-15(おそらくJ-15A)があったかつ後に中国のフォーラムにおいてカタパルト射出対応のJ-15が確認されたことなどから射出試験が行われたことが示唆されている。
空母への実装は2015年から建造開始した003型空母に3条の電磁式カタパルトを装備するとされている。
現代の航空母艦では、第二次世界大戦後にイギリス海軍で考案されアメリカ海軍において実用化された蒸気カタパルトが主流である。莫大なエネルギーを取り出すことが可能で熱出力の制限が事実上ないに等しい原子力推進機関と組み合わせて運用されることにより、上記の第二次世界大戦当時の各形式の欠点の大部分を克服している。
蒸気カタパルトは艦艇推進機関のボイラーからの高圧水蒸気を圧力タンクに貯めておき、航空機の発進時に一気にシリンダー内に導いて、その圧力で内部のピストンを動かす。ピストンはシャトルと一体であり、フライト・デッキ上の溝に出ているシャトル頭部に航空機の前脚部をつなぎ強力な加速力を加える。
カタパルト・シリンダーの断面はアルファベットの"C"の形をしていて一部に隙間があり、この隙間を通じてピストンとシャトルが接続されている。シリンダーの隙間は、蒸気の漏れを出来る限り防ぐために隙間の両側からゴム製シーリングが塞いでおり、ピストンとシャトルの接続部分だけがシーリングを押しのけている。
ピストンとシャトルがシリンダーを走行するときはシーリングを押しのけ擦れ合いながら移動するが、密閉が完全ではないためにカタパルトの使用時には蒸気が漏れているのがわかる。
蒸気カタパルトは、油圧式より高速で作動し、E-2のような重い航空機も射出でき、強力な加速が一度に加わる火薬式よりも航空機への負担が少ないという利点があるが、蒸気用の配管が必要になるという欠点がある。推進用機関のボイラーが蒸気式カタパルトの装備を前提としていなかったエセックス級では、改装で蒸気式カタパルトを装備した際にカタパルトを連続使用すると蒸気の不足により速力が低下した。現代の原子力空母は十分な蒸気発生量があるため、カタパルト使用による速力低下は一切無い。アメリカ海軍のジェラルド・R・フォード級航空母艦に搭載された電磁式カタパルトはリニアモーターを利用し技術的難度が高く電力も大量に必要となるが、蒸気式よりもさらに航空機への負担が少なく機体寿命の延長に繋がる。また配管を必要としないため、艦の構造が簡易で軽量になるという利点もある。
カタパルトの実用化初期には、それを利用する航空機に専用の牽引装置が備わっていなかったため、カタパルトのシャトルと航空機の主翼基部や胴体とを連結する「ブライドル」「ブライドル・ワイヤー」と呼ばれる装具が使用されていた。ごく初期にはブライドルは航空機の離艦と共に海面へと落下することで投棄される使い捨てであったが、やがてこの無駄を避けるためにカタパルトの前方フライト・デッキの端から突き出す形の「ブライドル・レトリーバー」と呼ばれるブライドル回収用の網が取り付けられた。2007年の現在ではほとんど全てのカタパルトを利用する航空機には、ブライドルに相当する専用のフックが前脚部に備わっているので、ブライドルとブライドル・レトリーバーは姿を消しつつある。なお当該機構については英語圏では「Bridle catcher」との表現が一般的であり、「Bridle retriever」という表現は一般的ではない。
当初は単に形式番号を付していたが、1923年12月より、AタイプやPタイプ、Cタイプといった細分類が導入された。
1978年にオーディシャス級空母「アーク・ロイヤル」が退役したことで、イギリス海軍における蒸気式カタパルトの運用は無くなった。実質的な後継空母であるインヴィンシブル級の就役時には、世界初の実用V/STOL攻撃機であったハリアーの艦載機型であるシーハリアーの実用化が済んでおり、固定翼艦載機をシーハリアーと各種ヘリコプターのみとしてSTOVL運用されることが決定済であったため、カタパルトは装備されなかった。
「クイーン・エリザベス級」では当初カタパルトの搭載が検討され、開発が進められていたが後に開発を破棄し最終的にカタパルト搭載そのものを中止している。
ドイツ製水上機発艦用火薬式・空気式のカタパルトをベースに国産化し、運用していた。空母「アキラ」はカタパルト搭載予定だったが、イタリアの降伏時完成しておらず、ドイツに接収後に「グラーフ・ツェッペリン」からカタパルトを移植されるが結局未完成のままとなった。 前述のように空母用カタパルトは完成しなかったが、現在はRQ-7無人偵察機の地上射出用に運用する。
RQ-7B無人偵察機の地上射出用に運用する。
RQ-21無人偵察機の地上射出用に運用する。
水上機発艦用に火薬式・空気式のカタパルトを開発・運用していた。空母用のカタパルトは「グラーフ・ツェッペリン」にて搭載されたが空母自体は未完成に終わった。空母装備の火薬式・空気式のカタパルトはJu87及びBf109Tを射出可能で、空気式の圧搾空気充填は約4分程度とされている。
前述のように空母用カタパルトは完成しなかったが、現在はラインメタル製のLuna NG無人偵察機の地上射出用に運用する。
2022年ロシアのウクライナ侵攻から多種類の無人機を運用しており、それに伴いカタパルトの運用も増加している。
空母用カタパルトを実用化できなかった大日本帝国海軍のカタパルト非搭載の空母は、搭載機の離艦時は風上に向かってより高速で航行する必要があり、大出力機関(また細長い艦型)を要し、建造と運用上の制約となった。発艦距離をとるために甲板を長く使わざるをえず、一度に甲板に並べることのできる機数は英米にくらべ減少した。また新型機が実用化されても、その増した重量に対してより高い離陸速度を稼ぐ必要があるため、低速な正規空母や甲板の短い軽空母・護衛空母では新型機の運用が不可能で、旧型機を使い続けなければならないといった不都合や、前述の風上航行などの準備作業が必要な事もあり、潜水艦などからの急襲を受けた際に航空機を迅速に緊急発艦させる事も難しい為に護衛空母というカテゴリーの空母を有効活用する事が出来ない結果を招いた。そして、マリアナ沖海戦においては、風上航行どころか泊地からの出航さえままならぬ状態にあった日本空母は泊地内に停泊したまま海戦前の航空訓練が行えず、搭乗員は発着艦さえままならぬ練度不足に陥り、同海戦の敗因の一つなった。
また天山や流星のように、高速な正規空母上であってもロケット補助推進離陸(RATO)を用いないと兵装満載状態で発艦不可能とされた機種もあった。日本軍のRATOは昭和19年頃に実験が完了し、その後は空母からの発進にはRATOが全面的に使用される予定であったが、既にその時期には戦局の悪化で空母が作戦行動出来る状況では無くなっており、実戦で使用される事は無いまま終わっている。なお、RATOは全備状態の艦載機の滑走距離を数十メートル短縮させる効果はあったものの、使用に際して爆発的な閃光を発する為、夜間に使用する場合には敵に空母の位置を暴露してしまう欠点があり、この点でもカタパルトよりも不利であった。
ATE Vulture無人機の地上射出用に運用する。
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