![さそり座ミュー星 さそり座ミュー星](/modules/owlapps_apps/img/errorimg.png)
さそり座μ星(英語: Mu Scorpii)は、さそり座に位置する重星。6′離れたμ1星とμ2星で構成される。μ1星はそれ自体が分光連星である。μ1星AaはXamidimura、μ2星はPipirimaの固有名を持つ。
この2つの恒星は、連星であるという主張と、単なる見かけの二重星であるという主張の両方が存在していた。見かけの固有運動は似ており、連星でないとしてもさそり座OB2運動星団には属すと考えられた。しかし、ガイア計画での年周視差の測定値が正しければ、μ1星が従来の測定値よりほぼ倍も遠く、μ2星と490光年近く離れており、連星ではないと考えられる。さそり座OB2の距離範囲380~470光年からもμ1星は大幅に外れ、星団から除外されている。
(μ1星+μ2星の話ではないので混同に注意)
μ1星が分光連星であることは、ソロン・アーヴィング・ベイリーが1896年に発見した。これは史上3番目に発見された分光連星である。
μ1星は分光連星であると同時に、こと座β型食変光星、すなわち星が潮汐力で変形するほど近づいた食連星でもある。2つのB型星が、互いに900万km(0.060天文単位)離れた円軌道を、1.446270日周期で公転している。0.5公転周期ごとに主星と伴星が交互に食を起こすが、少し斜めから見ているため減光は大きくなく、主星が最大食の主極小で0.30等、伴星が最大食の副極小で0.19等減光する。それらの間が極大だが、恒星が潮汐力で引き伸ばされているため、真横を向いた時以外は食でなくても見かけの面積が小さくなり減光し、極大が平常光度として続くことはない。
恒星の質量は8.5と5.3太陽質量、半径は4.1と4.4太陽半径(主星が小さい)であるのに対し、軌道長半径は12.9太陽半径しかない。これらから求まる伴星のロシュ・ローブ半径は伴星の半径とほぼ同じであり、伴星はローブを(完全にあるいはほぼ)満たし涙滴型に変形している。つまり、半分離型連星である。ローブを完全に満たしている場合に発生する、ローブからあふれたガスが主星に落下する時のドップラー効果は観測されていないが、技術の向上によりかすかな流れが観測できる可能性はある。
主星と伴星を符号で呼ぶことは希だが、その場合は(AとBではなく)分光連星なのでAaとAbを使う。Aはμ1星、Bは9″離れた9等星、Cは1.3′離れた9等星、Dはμ2星にあたるが、これらは連星をなしているというわけではない。
タヒチの伝承では、意地の悪い親から逃げた双子の男女である(双子と明言しない物語もある)。男の子はPipiri、女の子はRehua、父はTaua-tiaroroa、母は女の子と同名のRehuaである。双子は合わせて Pipiri ma と呼ばれる。maは「~たち(当人と誰か)」、Pipiri ma は「Pipiriたち」という意味である。
両親から逃げた2人は星になりμ星になったと伝わる。前方の明るい星がPipiri、後方の暗い星がRehuaであり、μ星に当てはめるとPipiriがμ1星、Rehuaがμ2星となる。さらに、双子を乗せて飛んだ巨大クワガタがアンタレスである。
クック諸島の、マヌアエ島(旧ハーヴェイ島)やマンガイア島では、双子ではあるが性別は姉弟となっている。姉はPiri-ere-uaあるいは英訳でInseparable(分けられない)、母はTara-korekoreである(弟と父の名は不明)。姉がμ1星、弟がμ2星、さらに、彼らを追う両親がλ星シャウラとυ星レサトである。Piri-ere-uaという名は、PipiriとRehuaをつなげたように見えることが指摘されている。
なお、ロバート・バーナム Jr原著の和訳書では、W.W.ギルによるとして、ポリネシアの伝承のピリ・エラ・ウア(分けられない真友)としている。ギルの名から、別書で彼によるとされている、マンガイア島のPiri-ere-uaに対応できる。バーナムは、この話はヘンゼルとグレーテルの物語に似ていると述べている。
マンガイア島ではμ星がPipiriであるとする資料もある。
ただし、これらの名がμ星以外の星のこともある。トゥアモトゥ諸島では、すぐ南(さそりの尾の側)の見かけの2重星$zeta;星、すなわちζ1星とζ2星が、Pipiri-maとされる。ソシエテ諸島などでは、ふたご座のカストルがPipiri、ポルックスがRehuaとされる。
また原始ポリネシアでRehuaの古い形Refuaはおそらくアンタレスのことで、マオリのトゥーホエ族やトゥアモトゥ諸島などでRehuaはアンタレス(もしくはアンタレスの男神)である。ただし、シリウスなど別の明るい星とする民族もある。
コイコイ人(総称であるナマ人とも)は、「ライオンの両眼」を意味する xami di mura と呼ぶ。ただし、物語のようなものは記録されていない。
xami(χamiとも)がライオン、mura(mũra・mûraとも)が両眼だが、単語ではまったく別の星を指し、Xamiはベテルギウス、Muraはケンタウルス座α星とβ星である。
なお、コイコイ語では xami di mura は「ハミ・ティ・ムンラ」と発音する。文字xは/x/を表す。/d/の音はコイコイ語にはなく、文字dとtは同じ/t/の音と、声調の違いを表す。uは、この表記法では明示されていない声調により鼻母音となる。
μ1星AaはXamidimura、μ2星はPipirimaという固有名を持つ。2017年9月5日、国際天文学連合の恒星の命名に関するワーキンググループ (Working Group on Star Names, WGSN) は、それらの固有名を正式に承認した。
これらはいずれも本来はμ1星とμ2星からなる二重星の名だが、それぞれに割り振られた。
Xamidimura は、アフリカ大陸南部に住むコイコイ人の言葉で「ライオンの眼」を意味する xami di muraに由来する。またPipirima は、上記のタヒチの伝承に登場する双子の男女に由来する。
クック諸島の類話のPiri-ere-uaや、和訳書にあるピリ・エラ・ウアが、名前として挙げられることもある。
日本では、μ星やν星を、「すもうとり星」と呼ぶ地方がある。
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