![八重山語 八重山語](https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/b/b3/Welcome_sign_in_Yaeyama.jpg/400px-Welcome_sign_in_Yaeyama.jpg)
八重山語(やえやまご)または八重山方言(やえやまほうげん)、八重山諸方言(やえやましょほうげん)は、八重山列島の石垣島、竹富島、小浜島、黒島、新城島、波照間島、西表島、鳩間島で話されている言語(方言)の総称である。琉球諸語(琉球語、琉球方言)の一つ。約44,650人の話者がいる。現地ではスマムニ、ヤイマムニと呼ばれる。八重山諸島の与那国島の方言は八重山語に属さず、与那国語とされる。
八重山においても沖縄県の他の地域と同様にウチナーヤマトグチ化が著しく、2009年2月にユネスコにより消滅危機言語の「重大な危険」(severely endangered)と分類された。
島ごとに次のように区分される。これらの間の方言差は著しく、お互いに通じにくい。また、石垣島においては地区ごとにも若干の方言差がある。例えば石垣島大浜地区では中舌母音が衰微している。
八重山語を代表して、石垣島中心部の石垣方言の音素を示す。
石垣島・竹富島・小浜島・新城島・西表島古見では/i、ï、u、e、o、a/の6母音体系を持つ。波照間島・石垣島白保ではこれらに/ë/の加わった7母音体系を持ち、鳩間島・黒島・西表島租納などでは/ï/が/i/に統合して5母音体系となっている(以下、iと区別するために、ïは赤字で示す)。このうち中舌母音/ï/は、[sï]または[zï]のように摩擦音を伴って発音される。/e/、/o/は母音が融合してできたもので、ほとんど長母音として出現する。ただし波照間島や石垣島白保では、[sïno](角)、[jogosuɴ](休む)のように、短母音e、oが現れる。
八重山語では一般に連母音は融合しないが、特定の語、特定の方言によっては融合する。(例)[mai](米・石垣方言など)、[sau](竿・鳩間方言など)、[meː](前・波照間方言)、[soː](竿・石垣方言など)。
無声子音に挟まれた狭母音が無声化する現象は日琉諸語一般に共通するが、波照間島・小浜島・西表島などではこれら以外の条件でも母音の無声化が著しい。広母音の無声化や、無声子音とm、nに挟まれた母音の無声化現象が起こる。
八重山語では、北琉球諸語や与那国語にあるような有気音と無気喉頭化音の対立はない。また、声門破裂音ʔも、音声的には出現することはあっても弁別的特徴ではない。
黒島では唇歯音のf・vが存在する。鳩間島ではfはあるがvはない。また西表島租納や竹富島には鼻母音が現れる。
八重山語の大部分では、日本語のeがiに変化した一方、日本語のiは中舌母音ïに変化しており、エ段とイ段の区別を保っている。しかし、ïは次第に衰退していく方向にあり、西表島租納や鳩間島、黒島ではïがiに統合している。竹富島でも、ïはs、c、zの後にしか現れず、それ以外の拍ではiに統合している。
カ行では、日本語のキは、石垣方言ではkïだが、竹富島や波照間島などでは/sï/または/si/が対応する。(例)[ʃinuː](昨日)。日本語のクは、/hu/となる。(例)[ɸutʃirï](薬)。また、語中のカ行子音は、[ʔagairu](赤色)のように濁音化する傾向があり、隣の与那国語ではこれが規則的である。
タ行では、tがsに変化している例が多く認められる。(例)[pusu](人・鳩間方言)、[ʃiː](手・波照間方言)、[ʃiː](血・黒島方言、鳩間方言)、[sïkeɴ](月・波照間方言)またタ行およびサ行では、日本語のウ段はイ段へ統合しており、チとツ、シとスの区別はなくなっている。
日本語の語頭のハ行子音は、八重山語全域でpとなる。日本語のハ行子音が古くはpだったとされ、それを残しているものとして有名である。ただし、ウ段のフは八重山語では/hu/([ɸu]あるいは[fu])となる。宮古方言ではフはfuであり、八重山語でも古くはfuだったと考えられている(pu→fu→ɸu)。(例)[pana](花)、[pïː](火)、[ɸuni](舟)。
日本語のワ行子音は、八重山語でbに対応する。南琉球諸語全体に共通する現象で、ハ行転呼によるワ行音には対応しない。(例)[barauɴ](笑う)、[butu](夫)。
八重山語では狭母音に続くラ行子音がsに対応している。(例)[kisuɴ](着る)、[ssuɴ](切る)。
八重山語の動詞活用は、地域による違いが大きい。ここでは代表地点の活用体系を示す。
以下に石垣島石垣市石垣の活用を示す。石垣方言の未然形には、nu(ない)、suN(せる)、sïmiruN(しめる)、riN(れる)、ba(たらば)などの接辞が付く。命令形1は比較的やわらかい調子の命令、命令形2は比較的強い調子の命令である。連用形にはpïsaːN(-したい)、hazimiruN(-しはじめる)などの接辞が付く。接続形には、te(て)のほかkiː(から、理由)、tta(た、過去)、uN(-している)などが付く。
iku(行く)、sïnu(死ぬ)、tubu(飛ぶ)、jumu(読む)、turu(取る)など、多くの動詞はkaku(書く)と同じ活用をする(いずれの語形も終止形1。以下同じ)。usï(押す)と同じ活用をするのは、kïsï(着る、切る)、tacï(立つ)などで、八重山語では日本語のスがシに、ツがチに統合したことによりこのような体系となっている。
utiN(落ちる)、ukiN(受ける)、idiN(出る)も、3類に属す。
「来る」は上記いずれとも異なる変則活用をする。
石垣方言の動詞活用体系を整理すると、基本語幹(甲)、基本語幹(乙)、連用語幹、接続語幹の4種類の語幹に、活用語尾が接続することになる。それぞれの語幹と活用語尾は以下の通り。ただ、記述方法としてこのような各種語幹を立てない説もある。沖縄語(首里方言)では、「書く」ならkakとkac、「読む」ならjum、jun、judと語幹が交替するため、連用語幹、音便語幹などを立てて記述するが、八重山語ではこのような語幹交替は認められない。
石垣島川平方言の各種動詞のうち、代表して「書く」「笑う」「起きる」の活用を示す。なお、以下は音素ではなく音声表記である。
川平方言の各活用形のうち、志向形は勧誘を表す。未然形には、nu(ない)、sïn(せる)、sïmirun(しめる)、rirun(れる)、ba(ば、条件)などの接辞が付く。連用形には、tsan(-したい)、uːsïn(-できる)、taŋgaː(ばかり)などが付く。音便形(条件形2)には、ta(た、過去)、tara(たら)などが付く。連体形には、体言のほか、maːdi(まで)、biki(べき)、na(な、禁止)などが付く。接続形には、ʃiti(-して)、ki(から、理由)、du(ぞ)、un(-している)などが付く。
鳩間島方言の「書く」「買う」「起きる」の活用を示す。鳩間方言では文語で二段活用をする動詞が派生・類推変化して、「書く」と同様の四段活用化した形(「起きる」段上段)と、ラ行四段活用化した形(「起きる」段下段)の、2種の活用形を持っている。
鳩間方言の志向形は、意志・勧誘を表す。未然形には、nu(ない)、ba(ば)、riN(れる)、suN(せる)が付く。連用形には、ti(て)、du(ぞ)、beː(n)(-おる)などが付く。連体形は、duの係り結びで使う他、体言、na(禁止)、ba(から)が付く。融合形1にはN(完了)、ti(ので)、ba(から)、taN(た)、naːnu(ない)などが付く。融合形2にはruN(れる)が付く。
八重山語の形容詞は、元々の語幹に「さあり」が接続した形が変化したものである。
石垣市石垣の形容詞活用は、語幹末にsを含むものとʃを含むものの2種に分かれる。以下に示す。
過去のdaは連用形に付く。このほか、takasanu(高くて)の形で理由を表す。
鳩間方言の場合、形容詞は語幹末の音節構造によって語尾交替が起こる。
未然形はba(ので、確定)が付く形、条件形はkaː(仮定)が付く形で、過去形にはta(過去)やtan(完了)が付く。接続形にはti(ので)などが付く。
『琉球方言文法の研究』より、石垣方言での文例を示す。
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