上記のような定義が一般的には知られている。時相でいうと、次音との間隔が短いのが I 音であり、次音との間隔が長いのが II 音である。心電図のQ波から II 音の間が収縮期であり、II 音と心電図のQ波の間が拡張期である。健常者では I 音から II 音より II 音から I 音の方が長いという事実と時相の分析はよく一致する。また I 音と II 音は部位によって大きさが異なることも知られている。心尖部では I 音の方が大きく聞こえ、心基部では II 音の方が大きく聞こえる。これは心尖部では僧帽弁により近く、心基部は大動脈弁に近いからであると考えられている。もし、I 音と II 音の同定に困ったら心尖部から心基部へ順に心音を聞いてみればよい。徐々に大きくなるのが II 音である。心基部では確実に II 音が大きく聞こえる。また I 音の方が持続時間も若干長いといわれている。頻脈を呈しているときはこういった知識を用いても I 音と II 音を同定できない時もある。このばあいは頸動脈を触診する。原則として I 音と II 音の間に頚動脈で拍動が触れる。もちろん橈骨動脈や足背動脈でも同様であるが、頸動脈が一番確実に同定できるといわれている。
I 音と II 音の異常としては以下のようなものが知られている。
I 音の異常
I 音の亢進:左室収縮力の増強、僧帽弁狭窄、PQ時間短縮、完全房室ブロックで、PとQRSが重なると大砲音という巨大な I 音が聴こえる。
I 音の減弱:左室収縮力の減少、僧帽弁閉鎖不全、PQ時間延長
I 音の分裂:脚ブロックで聞かれることがある。
II 音の亢進、減弱:肺動脈成分IIp、大動脈成分IIaが存在。通常IIaが先行する。II音の亢進、減弱は難しいので省略。
これらは I 音、II 音の生理学的な意義から、ある程度考察することができる。I 音は左室の機能に関係した音である。実際に若くて健康な人では I 音は大きく聞こえる傾向がある。心尖部で I 音が小さく聞こえるときは左心室の機能が低下しており、実際に心臓超音波検査ではEFが低値である傾向がある。強弱がわかりにくければベル型と膜型の聴診器を使い分ければよい。ベル型(軽く当てる)で聴取できて、膜型(強く押し付ける)で聴取できなければ高音が乏しく、I 音は減弱している。
II 音は、大動脈弁由来のAと肺動脈弁由来のPの二つの成分より構成されている。AとPの区別は頸動脈波などを用いなければわからないが、健常者の場合はAは心基部から心尖部に渡って聴取できるがPは2LSB近くに限局して聞こえるといった分布に差がある。分裂を聞き分けるには息こらえが必要な場合もある。分裂音はあくまで II 音なので心基部で聴取する。心尖部で同様の音が聞こえたら、それは II 音の分裂ではなく過剰心音である。分裂で特に重要なのは、息を止めなくても分裂が変化しない固定性分裂である。心電図で不完全右脚ブロックを認め、固定性分裂を認めたら心房中隔欠損症の可能性が高く、心臓超音波検査などで確定する必要がある。成人の場合は自然閉鎖が期待できず、手術の適応例が多い。
過剰心音
III 音
拡張早期に血液が心室に充満する音。心室壁に血流がぶつかり起こる。II 音の後に聞かれる。
心尖部でおっかさんというリズムで聞こえたらそれは III 音である可能性が高い。III 音、IV 音は共に、心尖部、左側臥位でよく聞こえる。心拡大が起こると III 音が、心肥大が起こると IV 音が聞かれる。III 音、IV 音共に聴かれる場合を gallop rhythm といい、心不全、虚血性心疾患、DCM、過剰輸液のサインである。III 音の病的意義は心室コンプライアンス低下、心室拡張期容量負荷である。IV 音と異なり必ずしも病的な意義はなく、生理的 III 音というものも存在する。左側臥位にすると若年者では III 音が聞こえるのが正常である。むしろ聞かれない場合が高血圧や心筋の肥厚を疑う。生理的 III 音が聞こえる場合は I 音、II 音も同時に大きく聞こえる場合が多い。その原因としては胸壁が薄く、心筋の伸展性が非常に良いためと考えられている。生理的 III 音と病的 III 音の聞き分けとしては I 音、II 音の音程、音量が手がかりになりやすい。生理的 III 音では I 音、II 音が大きく、III 音の音程が高い、そして病的な III 音では I 音が小さく聞かれ、 III 音の音程が低いと言われている。また病的 III 音が聞かれる場合は他の心不全徴候や心拍数の増加が見られることが多いことも手がかりとなる。典型的でないと同定は意外に難しい。心室壁のコンプライアンス(弾性力)の低下は III 音を起こすが、それで心室の拡張末期圧が上昇すると心房が強収縮をおこすので IV 音が起きるといった現象も知られている。結局、疑わしいと思ったら心臓超音波検査など他の検査を併用するべきであり、そこまで頼らないことが重要である。
IV 音
拡張後期に心房が強収縮することによって心室壁が振動する音。I 音の前で聞かれる。
心尖部でおとっつぁん(もしくはペヨンジュン)というリズムで聞こえたらそれは IV 音である可能性が高い。III 音、IV 音は共に、心尖部、左側臥位でよく聞こえる。心拡大が起こると III 音が、心肥大が起こると IV 音が聞かれる。III 音、IV 音共に聴かれる場合を gallop rhythm といい、心不全、虚血性心疾患、DCM、過剰輸液のサインである。III 音と異なり IV 音が聞こえたらそれだけで病的な所見である。IV 音が聞こえたら心筋が肥厚し、左室のコンプライアンスが低下していると考えてよい。つまり IV 音は左室の拡張障害と左室拡張末期圧の上昇を意味する。IV 音はあくまで心房の収縮を見ているので心房細動が存在したりして心房が十分に収縮しない場合は IV 音が存在するべき病態でも IV 音が聞こえない場合があるため注意が必要である。特に肥大型心筋症などがある場合は心房細動で左心不全に陥る場合があるため注意が必要である。
僧帽弁開放音 (OS)
MS でおこる。ランブルに先行する。
心膜ノック音
収縮性心膜炎でおこる。
駆出音
心室から半月弁を経て駆出する音。ASやPSでおこる。
収縮中期クリック
僧帽弁逸脱症で起こる。心尖部で I 音と II 音の間に聞こえる過剰心音である。タバタとかあかちゃんと聞こえると言われている。
心雑音
心雑音とは一般に心音と心音の間に聞かれる音であり心音よりも持続時間が長いのが特徴である。部位、時相、音程(ピッチ)などによって分類される。心臓カテーテル検査における圧較差のによって決定されることが多い。ピッチは高いほど病的であり、拡張期雑音も病的である。収縮期雑音は生理的なこともあるが時相が収縮後期になるほど病的な雑音の可能性が高くなる。また心雑音が聴取された場合はレバイン分類で記載する。重症例は聴診所見だけではなくスリルが触れるかという触診所見も重要となる。特に重要なのは心雑音が収縮期か拡張期かを同定することである。これは I 音と II 音の同定ができれば問題はない。心拍数が100/minを超えると収縮期と拡張期の判別はしばしば困難になる。また心雑音の音量が大きい時も間違えやすいため、頸動脈の触診を用い、拍動が感じる前が I 音という所見を参考にしながら行うことが望ましい。
レバイン I 度 - 極めて微弱で注意深い聴診で聴こえる雑音
レバイン II 度 - 弱いが聴診器を当てるとすぐに聴こえる雑音
レバイン III 度 - 振戦を伴わない高度の雑音
レバイン IV 度 - 振戦を伴う高度の雑音
レバイン V 度 - 聴診器の端を当てただけで聴こえる雑音、振戦を伴う。
レバイン VI 度 - 聴診器を胸壁に近づけただけで聴こえる雑音、振戦を伴う。
収縮期とは I 音と II 音の間であり、拡張期とは II 音と I 音の間である。駆出性は増減性がある音、逆流性とは増減性のない音である。心臓カテーテル検査、心電図、心臓超音波検査といったほかの検査の理論から定義されている。また傾向として機能性雑音は収縮早期であり器質性雑音は収縮中期以降から拡張期にわたることが多い。
確実に機能性雑音と言い切るには次の条件が必要である。それは収縮期雑音であり、I 音と II 音が正常であり過剰心音が存在しない。膜型(ベル型では強く押し当てる)では聞こえにくい低調音である。そして自覚症状がなく、心電図、X線写真で異常がないことである。雑音の放散部位も所見となる。心雑音が頸部に放散すれば大動脈弁由来、頚部ではなく背部に放散すれば僧帽弁由来である可能性が高い。なお、心雑音が圧較差に由来するため、圧較差が少ない右心系の弁膜症では雑音は聞かれないことが多い。心電図やX線写真で右心負荷所見を探し、心臓超音波検査で確認を行うというプロセスを踏むことが多い。
血液が心室や心房に逆流するときに生じる雑音であり、音量変化がなく、持続時間が長い。I 音から II 音まで連続するため I 音、II 音が聞き取りにくくなる。平坦で吹鳴様の雑音である。この雑音は高音であり重症化すると低音化する。心尖部に限局するのが特徴である。僧帽弁閉鎖不全症 (MR)、心室中隔欠損症 (VSD)、TR でおこる。