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834.194


834.194


834.194』(はちさんよんいちきゅうよん)は、日本のロックバンド・サカナクションの7枚目のオリジナルアルバム。ビクターエンタテインメント内のレーベルNF Recordsより2019年6月19日に発売された。本項目では2019年から2020年にかけて開催された同作品のリリースツアーおよびその映像作品などについても記述する。

概要

サカナクションのオリジナルアルバムとしては前作『sakanaction』から約6年3か月ぶりとなる作品で、それまでのキャリアの半分をかけて制作された。2019年3月7日に、バンドのリーダー・山口一郎がパーソナリティを務める「サカナLOCKS!」(TOKYO FM『SCHOOL OF LOCK!』内のコーナー)にてリリースが発表された。この時は本作の発売日を2019年4月24日とアナウンスしていたが、のちに2019年6月19日に延期された。本作は通常盤、完全生産限定盤A(Blu-ray付属)、完全生産限定盤B(DVD付属)の3形態で発売され、各形態ともCD2枚組で各9曲ずつの合計18曲が収録されている。また、完全生産限定盤には、ボーナストラック「years(Setsuya Kurotaki "NF Remix")」のダウンロードコードが封入されるほか、付属のBlu-rayおよびDVDには2017年5月9日に新木場スタジオコーストにて開催された「サカナクション デビュー10周年記念イベント"2007.05.09 - 2017.05.09"」の映像が収録されている。

アルバム全体のコンセプトは「作為性と無作為性」または「札幌と東京」であり、タイトルの『834.194』は、サカナクションが札幌時代に活動拠点としていた「スタジオ・ビーポップ」と、現在レコーディングの際に使用している東京の「青葉台スタジオ」を直線で結んだ距離(834.194 km)に由来している。

各収録曲の原曲は山口によって制作され、それをメンバーでアレンジして完成させた。レコーディングは東京の青葉台スタジオとソイ・スタジオで行われ、大半の曲のサウンドプロデュースは青葉台スタジオのチーフエンジニアである浦本雅史が務めた。CD2枚に分けて収録された楽曲のうち、DISC 1はポップでアッパーな楽曲を中心に構成されているのに対してDISC 2はノスタルジックでディープな楽曲を中心に構成されている。

複数の批評家はこのアルバムを肯定的に評価しており、2010年代のバンドの音楽活動とも結びつけながら批評を行っている。オリコンアルバムチャートでは最高位2位を記録し、日本レコード協会からゴールドディスク認定を受けている。

今作のプロモーションとして「ナイロンの糸」「忘れられないの」「モス」の3曲でミュージック・ビデオが制作されており、すべてバンドの公式YouTubeチャンネルで公開されている。アルバムをひっさげたツアーは2度開催されており、まず2019年に日本全国のアリーナを巡る「SAKANAQUARIUM2019 "834.194" 6.1ch Sound Around Arena Session」が開催され、追加公演として中国でも2公演行われた。2020年には日本全国のホールを巡る「SAKANAQUARIUM2020 "834.194 光"」が開催されたが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受け約半数の公演が開催中止となった。これを受け、その代替企画としてバンド史上初となるオンラインライブ「SAKANAQUARIUM 光 ONLINE」が2020年8月に開催された。

背景とリリース

2013年 - 2014年初頭:前作『sakanaction』のヒットからシングル『グッドバイ/ユリイカ』リリースまで

2013年3月15日、サカナクションは6枚目のアルバム 『sakanaction』をリリースした。この作品はオリコン1位、20万枚以上を売り上げ、またアルバムツアーは8万人の動員を達成した。さらに年末には紅白歌合戦の出場も決定し、2013年はバンドにとって躍進の年となった。さらにこの年には映画『バクマン。』の劇伴および主題歌の制作依頼を初めとした新たなタイアップの企画がサカナクションに持ち上がるようになったが、山口は『sakanaction』のリリースおよびツアーをやり終えた後に新しい目標を見つけたいという感情と折り合いがつがず、この状況に悩みを抱いていた。この時期に制作されていた楽曲は、東進ハイスクールのCMソング「さよならはエモーション」と映画『ジャッジ!』の主題歌「ユリイカ」であったが、これらの楽曲制作のためのスタジオでの作業中に突如出来た楽曲が「グッドバイ」だった。先の2曲の制作にかなり苦労していた中で自然に出来たこの「グッドバイ」について山口は雑誌インタビューで以下のように述べている。

この弾き語りを聴いたスタッフからも好評だったこともあり山口は、「グッドバイ」を東進ハイスクールのテレビCMに使用し、9枚目のシングルを『さよならはエモーション/ユリイカ』ではなく『グッドバイ/ユリイカ』として両A面でリリースしたいと考えた。しかしこの時すでに東進のCMは「さよならはエモーション」の音源を用いた状態で完成していたため、一時はそれが叶わないこととなり山口は酷く落ち込んだという。これがトリガーとなり精神的にかなり不安定に陥ってしまった状況に危機感を覚えた山口はスタッフになんとか「グッドバイ」を『sakanaction』以後の初リリースとなる作品にしたいと相談したところ、タイアップに使用する曲は変更できないもののシングルとしてリリースする楽曲の調整はできることとなった。こうして2014年1月15日、先に制作を開始していた「さよならはエモーション」を一旦差し置いて『グッドバイ/ユリイカ』を9枚目のシングルとしてリリースした。

ここで発表した二曲はミドルテンポかつミニマルな構成の楽曲であったことから、関係者からは楽曲としての完成度は評価されつつもこれらの作品を最新アルバムでオリコン1位を獲得した直後にリリースすることには当初反対が相次いだという。しかし山口にはこの2曲について「マジョリティの中のマイノリティ」というバンドの立ち位置を確立したいという強い意向があったためリリースに踏み切ったことを語っている。この時期に打ち立てられた「マスからのドロップアウト」というコンセプトは、その後何度か解釈・表現の仕方を変えつつも最終的なアルバムの完成まで受け継がれることとなる。

2014年 - 2015年:NF発足・シングル『新宝島』の完成まで

9枚目のシングルとして『グッドバイ/ユリイカ』をリリースした直後からバンドはホールツアー「SAKANAQUARIUM2014 SAKANATRIBE」を開催し始めたが、この時期にメンバーの岡崎(key.)が精神面でのスランプに陥った。ライブなどで演奏することは出来たものの、制作の際に自身からアイデアを出すことは不可能な状況にあった。これに加え山口も、前述したグットバイのリリースを巡る件で精神的に不安定な状況が続いていた。外から見たバンドの状況としてはアルバム「sakanaction」で初のオリコン1位を獲得し、紅白歌合戦への出場を決め、さらなるタイアップの契約も進んでいたため躍進の時期とみられていたが、メンバー間での内情は下降の一途を辿っており、当時について江島は「正直もう終わった」とまで考えていた時期もあったと後に語っている。

2014年5月、映画『バクマン。』の主題歌および劇伴の最初に設定された締め切りがこの時期に設定されていたが、前述の事情により順調に制作を行える状況では無かったため同年の秋ごろに引き延ばされることとなった。

2014年10月、10枚目のシングル『さよならはエモーション/蓮の花』を両A面でリリースする。ここで発表された二曲についても、「グッドバイ」「ユリイカ」と同様「マジョリティの中のマイノリティ」というバンドの立ち位置を表現する意図があったと語っている。

2014年11月末、翌月に控えた映画『バクマン。』のダビングステージ作業に合わせて劇伴の制作を完了させることは出来たものの、主題歌は山口による歌詞の執筆が思うように進行しなかったため完成させることが出来ず、さらに締め切りを延ばすこととなった。これまでにバンドではバクマン。に関連した楽曲を一枚のアルバムとしてリリースするアイデアもあり7枚目のオリジナルアルバムには収録されない可能性もあった。最終的に主題歌シングルとして決定してから山口は映画のストーリーと当時掲げていた7枚目のアルバムのコンセプトである「東京」というテーマを包括した歌詞の制作を目指したものの、納得のいくものを仕上げられないまま11月の締め切りを過ぎることとなった。当時について山口はかなり「ヤバイ」と思っていたと後に語っている。

2015年1月3日、この日NHK総合テレビジョンで放送された特別番組「ネクストワールド 私たちの未来」の初回放送でRhizomatiks、アンリアレイジ、三田真一らと共に「三十年後の未来のライブ」をイメージしたパフォーマンスを行った。またこの放送に合わせて同日の正午よりUstreamで行われた配信で、草刈が数年前に婚約していた一般男性との間に第一子を妊娠していたことと、それにともなった産休のためにレコーディングは行うものの、ライブ活動をしばらく休止することを発表。発表後は、約半年間、山口は『バクマン。』の主題歌「新宝島」の歌詞執筆、草刈は出産の準備、残りのメンバーは過去作品のハイレゾ配信およびアナログ盤やカップリングアルバム発売にむけたリマスタリング作業という形でそれぞれのタスクを進行する期間が続いた。

7月2日から3日にかけて、バンドはカルチャーイベント「NIGHT FISHING」を恵比寿リキッドルームで開催した。ライブ活動を休止している中このタイミングでイベントの開催に踏み切ったのには、前述した『NEXT WORLD』の放送と草刈の産休が重なったことが要因している。ネクストワールドで異なる分野のクリエイターと作業を行い話をした時に音楽と他のカルチャーとの結びつきが弱い現状を打開する必要性に気づいたこと、そういった音楽と音楽以外のカルチャーを結びつける空間をオーガナイズするにはライブ活動を休止している当時のタイミングしか無かったと山口は語っている。

8月5日にカップリングアルバム『懐かしい月は新しい月 〜Coupling & Remix works〜』をリリース、9月1日に山口は新宝島のレコーディングを終えた旨をインスタグラムで報告した。

9月11日には「NIGHT FISHING」のイベント名を「NF」と改め、その#01を恵比寿リキッドルームで開催した。

9月30日、新たに立ち上げたバンドの自主レーベル「NF Records」からバンドの11枚目のシングルとして「新宝島」をリリースした。そして10月から翌2016年の春にかけてNFの開催やショートフィルム「Miu Miu」の劇伴制作を挟みつつ、シングルの実質的なリリースツアーとなる「SAKANAQUARIUM 2015-2016 "NF Records launch tour"」で全国を回った。

2015年のNF発足を初めとした音楽以外の文化との関わりを積極的に持ち始めた時期に関して山口は

と振り返っており新曲を完成させるためにも必要なステップであったとしている。ただし他のメンバーはこの時期の山口の文化的な活動に関して基本的には肯定的に捉え理解を示しつつも、音楽活動とのバランスを取るのに苦労していた面もあったことを指摘している。

このように、当初は山口と他のメンバーとの間でモチベーションに差はあったのものの、音楽以外の文化と関わる経験を重ねそれを自身の音楽制作へと還元していく活動スタイルがこの時期から徐々に形成されていき「多分、風。」以降の楽曲制作へと繋がっていくこととなる。

2016年 - 2018年春:富ヶ谷セッション・ベストアルバム『魚図鑑』のリリースまで

新宝島が完成し草刈がバンドに復帰してからは、5人での音楽制作のリズムを作り直す時期がしばらく続いた。新宝島の制作後、岩寺と江島で「多分、風。」を、江島と岡崎で「陽炎」を制作しはじめたが、草刈は子育てのために以前よりもスタジオに滞在できる時間が短くなり、岡崎は依然としてスランプからの回復の途中にあったことが重なりバンドのペースを取り戻すことがなかなかできなかったという。2015年の後半からNFを初めとした音楽制作のモチベーションを向上させる様々な試みを行ったにもかかわらず、新しい活動スタイルを確立出来ない状況に不安を感じていたと江島は振り返っている。

2016年10月19日、12枚目のシングル『多分、風。』をリリースする。この時期は新アルバムに向けて本格的に動き始めてはいなかったものの、「郷愁」や「東京」というコンセプトをもとにアルバムの構想を練っていたことを山口が当時のインタビューで語っている。

山口は前述したバンドのペースを取り戻すことが出来ていない状況に変化を与えるため、自宅とは別にバンド専用のスタジオを新たに作ることを提案し、2017年の8月に富ヶ谷にレコーディングスタジオ「Silent Studio」が設立される。このスタジオの設備やコンセプトについてはテレビ朝日系列「関ジャム 完全燃SHOW」2018年6月3日放送回やサウンド&レコーディング・マガジン2019年8月号で解説されている。さらに山口は新しい環境を整備したとしても目標がないままでは制作が進まないと考え、AORというテーマを提示し、新曲の試作に取りかかり始める。この富ヶ谷スタジオで制作をしていた期間(メンバーは富ヶ谷セッションと呼称している)に、1人が持ち寄ったメロディやコード進行を他のメンバーと共に練り直したり、互いの当時よく聞いていた音楽の共有を行ったりしたことで徐々にバンドの調子を取り戻すことができたという。

しかし、この富ヶ谷セッションで新たに作られた音源は完成度にはおおむね満足していたもののサカナクションの音楽ではないという山口の判断から全てボツとなった。ただし、このような結果になったものの、富ヶ谷での期間が無駄になったと考えるメンバーはおらず、バンド全員で同じ感覚を再び共有するための試運転という目標は達成できたとしている。また当時の音源は新アルバムに使用されていないながらも、この時期に獲得したAORの音楽性や演奏技術のお陰で後に「忘れられないの」を生み出すことができたと振り返っている。また特に演奏技術に関しては、この時期岩寺に「覚醒」が起きたと山口は語っている。

富ヶ谷セッションを経た後、以前からデモ音源のあった「陽炎」を映画『曇天に笑う』の主題歌として完成させる作業が始まった。同時に映画のオープニングテーマとして"NF Records launch tour"で披露した「SAKANATRIBE -TRANCE MIX-」のリアレンジ作業も行っていたが、この時期は富ヶ谷セッションの時期のような雰囲気ではなく、目の前の締め切りに間に合わせることで精一杯であったという。完成前の「陽炎」は2017年4月7日に開催された「SAKANAQUARIUM 2017 高崎アリーナオープン記念ライブ」以降ライブでも演奏されていたが、2017年の間に音源としてリリースされることはなかった。メジャーデビュー10周年でありながらも2017年にリリースされた音源はYouTubeでMVが公開された「SORATO」一曲のみであり、シングル・アルバム共にCDの発売は無くまたライブ映像作品のリリースも無かった。

2018年3月28日、ベストアルバム『魚図鑑』をリリースし6枚目のアルバム『sakanaction』以来のオリコン1位を達成する。当初このベストアルバムには「グッドバイ」から「多分、風。」までのものも含めた全てのシングルを収録するアイデアも浮上していた。しかし、もし実際に全てのシングルを収録してしまうと、「グッドバイ」「ユリイカ」「さよならはエモーション」「蓮の花」のマジョリティからの脱却を試みた時期を経ての「新宝島」「多分、風。」への再浮上というストーリーを表現する機会が失われてしまうことに気づき、最終的に「新宝島」「グッドバイ」をのぞいたシングル曲は収録されなかった。こうしてリリースされたベストアルバムが高く評価されたことで山口の中では次のオリジナルアルバムで表現するべきコンセプトが明確になり、7枚目のアルバム制作に向けて本格的に動き出すきっかけとなった。一方、他のメンバーの間では出来ることであればこのタイミングでベスト盤ではなくオリジナルアルバムを完成させたかったという思いもあったためいくらかネガティブな気持ちも抱えていたという。

2018年夏 - 2019年3月:新アルバムのリリース発表まで

ベストアルバムのリリース直後は山口と他のメンバー間で新アルバムへのモチベーションに差が生じていたが、その後の夏フェスシーズンが終了した後に「ナイロンの糸」、「忘れられないの」、「モス」の3曲のレコーディングを始めた時期からはメンバー全員がアルバム制作を本格的に取り組むようになった。ここでほぼ完成していた3曲は2018年11月末から12月初頭にかけて4日間開催された「SAKANAQUARIUM2018 "魚図鑑ゼミナール" VISUAL LIVE SESSION」以降のライブで披露された。

また、この公演の3日目、2018年12月2日の夜に開催されたクラブイベント「NF#11 at EX THEATER ROPPONGI」でサカナクションの前身バンド「ダッチマン」時代の楽曲「セプテンバー」を弾き語りで演奏した。「セプテンバー」は山口が10代の時に制作されたものであるが、NFで披露した際の観客の反応に手応えを感じたことで札幌時代のいわゆる「自分たちのためだけに作った曲」でも今のサカナクションのファンには評価されることに気づいたという。また、この気づきをきっかけに山口は、2013年の『sakanaction』以降から続いていた自身の中の葛藤の正体が札幌で音楽を作っていた時代の感覚をいかに現在の楽曲に再び取り込むことができるか、「無作為性をいかに作為的に作りだすことができるか」というものであったことを発見し、その葛藤は「札幌と東京」という二つの場所をコンセプトにすることでアルバムとして表現できるという結論にようやくたどりついた。

翌年の3月7日、山口が「サカナLOCK!」で新アルバムを4月24日にリリースすることを正式に発表しここで初めて東京と札幌の距離を元にした『834.194』というタイトルが公開された。

2019年3月 - 6月19日:アルバム発売延期とリリースまで

3月28日、山口は「サカナLOCK!」でアルバムの発売日をおよそ2か月延期することを発表した。延期の主な要因は山口が「忘れられないの」の歌詞を完成できなかった為であり、このことで山口は他のメンバーに意思共有の方法などに関して厳しく意見されたという。

山口は「忘れられないの」の最終的に完成させた日のエピソードを幾つかの場所で語っている。山口が「忘れられないの」の歌詞執筆の休憩中にお茶を淹れたところ茶柱が立っていることに気づき、その日のうちに歌詞を書き終えることが出来たという。また、この経験を元に急遽制作されアルバムに収録された楽曲が「茶柱」である。ちなみに、この時飲んでいた緑茶はGEN GEN ANのものであり、以降バンドとは何度かコンテンツを共に制作している。

2019年6月19日、前作『sakanaction』から実に6年3か月という期間を経て7th Album『834.194』がリリースされた。

制作

コンセプト

アルバム全体のコンセプトは「作為性と無作為性」または「札幌と東京」であり、タイトルの『834.194』は、サカナクションが札幌時代に活動拠点としていた「スタジオ・ビーポップ」と、現在レコーディングの際に使用している東京の「青葉台スタジオ」を直線で結んだ距離(834.194 km)に由来する。各ディスクタイトルもこれらのスタジオに由来しており、DISC 1のタイトル「35 38 52 9000 / 139 41 39 3000」は青葉台スタジオ、DISC 2のタイトル「43 03 18 9000 / 141 19 17 5000」はスタジオ・ビーポップの座標と一致している。このことからサカナクションのメンバーはそれぞれのディスクを「東京盤(DISC 1)」「札幌盤(DISC 2)」とも呼称している。

また、アルバムタイトルの公式な読みは数字を一文字ずつ読んだ「はちさんよんいちきゅうよん」であるが、メンバーは「やみよいくよ(闇夜行くよ)」と読んでいる。ただしあくまでタイトルの由来は上記の通りであり、「闇夜行くよ」とも読めることに関しては山口は「偶然こうなった」と語っている。

制作環境と役割分担について

このアルバムでは前作『sakanaction』の制作から引き続いて、草刈が産休を取り復帰するまでは、デモ音源の作成などをメンバーの自宅で行うことが多かった。2016年から2017年にかけては自宅での制作環境をアップデートしたものとしてバンドのプライベートスタジオ「Silent Studio」を設立した。このスタジオでは「陽炎」の制作などが行われたが、最終的にアルバムに収録された音源の中に「Silent Studio」で録音されたものは無いという。2018年に発表された「陽炎 -movie version-」やシングル曲以外の今作に向けて制作された新曲はすべて青葉台スタジオやソイスタジオで収録されている。

今作のサウンドプロデュースは大半の楽曲で青葉台スタジオのチーフエンジニア・浦本雅史が務めた。「新宝島」および「「聴きたかったダンスミュージック、リキッドルームに」」のレコーディング・エンジニアとして同じく青葉台スタジオの土岐彩香が、浦本のアシスタントエンジニアとして吉井雅之が制作に関わっている。浦本は3rdアルバム『シンシロ』以降のすべてのアルバム・ライブ映像作品で関わっており、2015年から2016年にかけて行われたツアー『SAKANAQUARIUM 2015-2016 "NF Records launch tour"』以降のライブではマニピュレーターも務めている。多くの現場をバンドと共にこなしてきただけでなく、レコーディング現場での雰囲気づくりなどでも大きな役割を担っていることから山口は「サカナクションの6人目のメンバー」と表現している。今作の制作について浦本はライブでマニピュレーションを行った際に新曲を聴いた観客の反応を目にすることができたおかげで最終的な新曲の音作りをどうするかの決断が出来たと語っており、これまでにサカナクションと関わる現場で多様な役割を担ってきたからこその貢献が出来たと振り返っている。

制作期間

アルバムには山口が17歳の時に制作した楽曲から発売の2か月ほど前に急遽制作された楽曲までが収録されている。もっとも古い曲は「セプテンバー」であり、これは山口がサカナクションの前身バンド・ダッチマンが発足するよりもさらに前に1人で制作した楽曲である。今作で「セプテンバー」を2パターン収録したことについて山口は、かつて自分のためだけに「無作為的に」制作したこの曲を、キャリアを重ねた現在の技術力だからこそ制作できる人に聴かれることを前提とした「作為的な」アレンジを施したバージョンのものと一緒に収録することで、アルバムのテーマを表現させる狙いがあったことを語っている。

山口は今作でもっとも制作が難航した楽曲は最後から2番目に完成したリード曲「忘れられないの」であると語っている。アルバム制作における最後の難関を突破する手助けとなった経験として、2018年の4月にラジオで松任谷由実と共演した際のエピソードを挙げている。収録の合間の雑談で、かねてより「ポップスを作りたい」と相談をした山口に対して「完成した直後でも数十年後でもない五年後に世間に理解・評価されるものがポップスであるという視点においてサカナクションはすでにそういった音楽を作ることが出来ている」と指摘されたことで、必要以上に万人受けを狙おうとせず自分たちの好きな表現を追求してよいのだと安心した結果、完成にこぎつけることができたと語っている。なお、完成するまでには歌詞を180パターン書いたと語っている。

他のミュージシャンとの共同制作

今作では複数の楽曲の制作において他のミュージシャンと共同で制作を行っている。DICS1に収録された「モス」では世武裕子がコーラスに参加している。世武はこれまでに山口と江島が2016年に参加したアンリアレイジの2017年春夏パリ・コレクション"SILENCE"で初披露された「ユリイカ」のカバーバージョンをはじめ、様々な機会にサカナクションと共同制作を行っている。青山翔太郎は題名に名前が含まれているDICS1の8曲目「ユリイカ(Shotaro Aoyama Remix)」以外にも、「忘れられないの」「モス」で一部楽器のアレンジを担当している。DISC 2に収録されたインスト曲「834.194」はサカナクションと札幌出身のミュージシャンであるKuniyuki Takahashiと共同で制作された。その他、ストリングスなどの一部楽器のレコーディングはそれぞれの楽器奏者に依頼をしている。

「SORATO」未収録の背景

サカナクションは2016年に月面無人探査を競うコンテスト「Google Lunar X Prize」に参加していたプロジェクトの1つ「HAKUTO」のアンバサダーに就任し、応援ソングとして「moon」を制作した。当初はプロジェクトの進行具合に合わせて楽曲のリアレンジを繰り返すというコンセプトが設定されており、2017年には「moon」の進化系として「SORATO」が発表された。この曲はミュージック・ビデオも制作され、当時はシングル曲と共にアルバムに収録される予定であった。

その後、2018年3月31日に勝者がないままコンテストの期限が終了したため「HAKUTO」のプロジェクトは途中で終了し、ispace社による日本初の民間月面探査プログラム「HAKUTO-R」に引き継がれることを発表した。これを受けサカナクションは「HAKUTO-R」の月面探査プロジェクトが進行・完結した際に再び「SORATO」のリアレンジを行いそれを今後のアルバムに収録するべきであると考えたことや、楽曲のテーマである「宇宙」を今作の「東京と札幌」というコンセプトに合わせにくかったことを理由に、発表当時ラジオなどで公言していた『834.194』への収録を見送った。なお「SORATO」は当初「東京」をコンセプトとしたDISC 1に収録予定であった。

プロモーションとマーケティング

アルバムに関する情報のリリース

アルバムのリリース情報(タイトル・発売日)および2019年のツアータイトルが正式に発表されたのは山口がメインパーソナリティを務める「サカナLOCKS!」の2019年3月7日放送回である。この日の放送終了後、公式SNSなどでも情報が解禁され特設サイトやアルバム宣伝専用のSNSアカウントも開設も発表された。しかし、3月28日に制作作業の遅延からアルバムの発売延期を発表している。当初の発売日(4月24日)を少し過ぎた4月26日に先着予約・購入特典の内容がアナウンスされる。5月19日にはマスタリング作業の完了が公式SNSで報告され、5月24日には 「サカナLOCKS!」において収録曲と商品展開に関する情報がアナウンスされた。この日には「忘れられないの」のラジオ放送も解禁されている。この他にも5月から6月にかけての「サカナLOCKS!」では今作の発売前の情報が少しずつ公開され、6月14日には同番組で「モス」のラジオ放送が正式に解禁されている。

今作のリリースツアーはアルバムの発売日を挟んで二度開催されており、これはサカナクションの作品では初となる。まずはアルバムの発売前に全国のアリーナを巡るツアー「SAKANAQUARIUM2019 "834.194" 6.1ch Sound Around Arena Session」が2019年4月6日から6月14日にかけて行われた。このツアーの千秋楽から5日後の6月19日にアルバムが発売されている。そしてアルバムの発売から約7か月後に全国のホールを巡る二度目のリリースツアー「SAKANAQUARIUM2020 "834.194 光"」が2020年1月18日から開催された。詳しくは#ツアー・関連する公演の節を参照されたい。

商品展開

本作は、通常盤のほかに、完全生産限定盤A(Blu-ray付属)、完全生産限定盤B(DVD付属)もリリースされた。完全生産限定盤は特殊パッケージ仕様となるほか、ボーナストラックがダウンロードできるコードが封入されている(有効期限は2019年12月19日まで)。付属のBlu-ray、DVDには2017年に新木場スタジオコーストで開催された「サカナクション デビュー10周年記念イベント "2007.05.09 - 2017.05.09" -LIVE AT STUDIO COAST 2017.05.09-」の映像がMCとともに130分以上にわたって収録されている。また限定盤Aにのみ、前作『sakanaction』以降に発表されたシングル6曲のミュージックビデオも収録されている。これら特典映像の曲目は#収録曲を参照。

また今作はサカナクションのオリジナルアルバムでは初となるシングルカットが行われている。「忘れられないの」「モス」の2曲を収録した両A面シングル「忘れられないの/モス」のリリースが7月10日に発表された。このシングルは8センチCDで当初は1万枚限定でのリリースとアナウンスされていたが、近年では珍しくなった8センチCDという商品形態やアートワークが話題を呼び予約が殺到したためリリースの発表からわずか3日後に追加生産が行われた。

大量のプロモーション

2019年にサカナクションは6年ぶりにオリジナルアルバムが発売したことによりこれまでに無いほど多くのメディアに露出した。発売日前日に出演したラジオ番組で山口は、久しぶりのプロモーション活動に「勘が取り戻せていない」と話している。また特に6月・7月にかけて大量の告知が積み重なった際は、SNSでファンに向けて「誰か情報をまとめて欲しい」とまで発言した。またこうした数々のプロモーションに加えてバンドのオウンドメディアでもアルバム発売に関連した企画を行った。6月22日には同年3月に放送が終了したレギュラー番組「NFパンチ」の企画として、下北沢の路上にて山口による告知無しの販売会兼サイン会が開催された。この模様を記録した映像は後に番組の公式YouTubeチャンネルにアップロードされた。

今作のリリースにあたって幾つかのテレビ番組で収録曲が披露された。まず6月21日のテレビ朝日「MUSIC STATION」では「忘れられないの」を披露した。同日に公開された同曲のミュージック・ビデオの生放送での再現に挑戦し話題を呼んだ。続いて7月6日放送のNHK総合「SONGS」の第503回では「新宝島」「グッドバイ」「忘れられないの」を披露した。今作からのリカットシングル「忘れられないの/モス」がリリースされてから2日後の8月23日にも「MUSIC STATION」に再び出演し、この回では「モス」を披露した。

タイアップ

今作は多くの収録曲にタイアップがついている。アルバムのプロモーション期間には「ナイロンの糸」「忘れられないの」「ワンダーランド」「モス」のタイアップが発表され、それぞれの楽曲が使用されたCMや番組のオンエアが開始された。

ミュージック・ビデオ

ミュージック・ビデオに関する背景とリリース

今作に収録された楽曲の全18曲中10曲でミュージック・ビデオが制作された。このうち「グッドバイ」「ユリイカ」「さよならはエモーション」「蓮の花」「新宝島」「多分、風。」は先にそれぞれのシングル発売時のプロモーションとして制作され、「「聴きたかったダンスミュージック、リキッドルームに」」は2017年にGINZA、MEN'S NON-NO、ボッテガ・ヴェネタとのコラボレーション企画「MIDNIGHT DAYDREAM」においてドラマ映像が制作された。

今作のプロモーションとして制作されたミュージック・ビデオは「ナイロンの糸」「忘れられないの」「モス」の3曲である。「ナイロンの糸」は山田智和が、「忘れられないの」は田中裕介が、「モス」は山口保幸がそれぞれ監督を務めた。この3人は2018年11月末から12月初頭にかけて4日間開催された「SAKANAQUARIUM 2018 "魚図鑑ゼミナール"VISUAL LIVE SESSION」において「深海」「中層」「浅瀬」セクションの演出を担当し、このライブに向けてそれぞれの楽曲に合わせた映像を一度制作している。その後、新たにミュージック・ビデオとしての映像が制作され、「ナイロンの糸」は2019年6月4日、「忘れられないの」は同年6月21日、「モス」は同年7月11日に公開された。なお、「ナイロンの糸」にはカロリーメイトCM「考えつづける人」篇の約3分半の映像が、「忘れられないの」にはYouTubeで活動する動画クリエイターDrop Block Studioが制作したバージョンの映像が存在しており、どちらもバンドの公式YouTubeチャンネルにアップロードされている。

また今作の収録曲では、ミュージック・ビデオの他にも映像作品などのプロモーションとして「モス」と「ワンダーランド」のライブ・パフォーマンスの様子を切り取った映像が同チャンネルにアップロードされている。

ミュージック・ビデオの内容

ナイロンの糸
都市の近海に飛び込む男性のショットから映像が始まり、男性が荒波の中を溺れそうになりながら泳ぐ様子と女性が緑色のネイルを塗る様子、またその二人が素肌を触れ合わせる様子を接写したショットなどで構成されている。砂漠をロケ地にしたカロリーメイトのCM映像とは対照的にオリジナル版のミュージックビデオは「水と都市」をテーマとした作品となっている。
忘れられないの
1980年代前半の歌謡ショーをイメージした世界観の中で全身白の衣装に身を包んだメンバーが演奏を行う様子をワンカットで納めている。ヤシの木、ビーチパラソル、白いビーチチェア、ハメコミ合成による摩天楼の空撮夜景等、当時のトレンドを連想させるアイテムが数多く登場している。サングラスに肩パット入りスーツという山口の出で立ちは、山口と同じ身長(167cm)でもあるオメガトライブ時代の杉山清貴を意識している。映像には山口を誘惑する水着の女性としてモデルAmyや、歌詞と同じタイミングで「ガムを吐き捨てる」男のモデル矢野崇人などの他に楽曲のタイアップ先であるソフトバンクのテレビCM「速度制限マン」篇に登場した「速度制限マン」役の嶋田久作が同じ姿で登場している。監督の田中は2018年の「SAKANAQUARIUM2018 "魚図鑑ゼミナール" VISUAL LIVE SESSION」の演出としてサカナクションと関わった際に、当時山口が「忘れられないの」を80年代に連載されていた漫画「ハートカクテル」の世界観を参考にしながら制作しているという話を聴いていた。このためVISUAL LIVE SESSIONで仮完成した同曲を披露する際に使用した演出映像や、後にミュージック・ビデオを撮影する際も80年代のイメージを踏襲した映像にこだわったと語っている。
モス
真っ白な空間に鎮座する繭のアップから映像が始まる。繭の全体が見えるまでカメラが引いた後は約2分にわたってほぼ展開が無くわずかに繭が揺れる様子が確認できるのみで、初めて観た者は試聴環境によってはこれが実写なのかアニメなのか、CGなのかすらも判別がつきにくいものとなっている。中盤、2番のサビに差し掛かった瞬間に突如として繭の左側から人の腕が出現し、そこからゆっくりと全身を出していく。ここで初めて繭の中で眠っていたのが山口であったことが判る。繭から"生まれた"山口は息を整えたあと繭から少し離れた場所にあるドアから白い空間を出てアパートの廊下に場面が切り替わる。すると、同じタイミングでドアから出てきた井手上漠演じる人物と目が合った所で映像が終わる。この映像に井手上漠が起用されたのは、井手上の生い立ちが「モス」の仮タイトルかつメインコンセプトである「マイノリティ」というテーマを体現していることなどがあげられる。

ミュージック・ビデオの評価

「忘れられないの」のミュージック・ビデオが、MTVジャパンが主催するその年の優れたミュージック・ビデオを表彰するアワード『MTV Video Music Awards Japan』で最優秀ダンスビデオ賞を受賞した。

Collection James Bond 007

音楽性と歌詞

今作は収録曲をDISC 1とDISC 2に分けており、それぞれのディスクで音楽性が異なっている。DISC 1はポップでアッパーかつダンスミュージックの要素が多くを占めるのに対しDISC 2はノスタルジックでディープかつアナログな印象を感じさせる。

DISC 1「35 38 52 9000 / 139 41 39 3000」

冒頭の「忘れられないの」はAORが取り入れられており、このような楽曲を制作できるようになったのは2016年ごろに設立したバンドのプライベートスタジオで繰り返し演奏を研究してきたからとメンバーは語っている。 2曲目の「マッチとピーナッツ」のコンセプトは山口いわくビージーズ・ジュディ・オング(メロディ)およびつげ義春(歌詞)をイメージしている。全編にわたって音が鳴っているシンセサイザーの音はミニモーグが使用されている。 3曲目からは「陽炎」「多分、風。」「新宝島」とアッパーな曲が連続し、「モス」でピークを迎える。メンバーの間での「モス」のイメージはトーキング・ヘッズ、山本リンダ、90年代から2000年代のUKロック、C-C-Bを1:1:1:1で混ぜたものとしている。またこの曲のベースにはヘフナー・500-1(1962年製)が使用されており、ライブパフォーマンスにおいても同じものが使用されている。 7曲目の「「聴きたかったダンスミュージック、リキッドルームに」」は2015年の草刈の産休中に制作された曲であり、エレキベースは全て岩寺によるテイクが使用されている。この点からサカナクションの歴史における重要な曲であるとして今作に収録された。 8曲目「ユリイカ(Shotaro Aoyama Remix)」はバンド9枚目のシングルの表題曲「ユリイカ」を東京出身のアーティストである青山翔太郎によってインスト的にリミックスされた楽曲である。9曲目の「セプテンバー -東京 version-」は山口が10代の時に一人で制作した曲を現在のサカナクションの音楽性に合わせてリアレンジされている。

DISC 2「43 03 18 9000 / 141 19 17 5000」

前半は「グッドバイ」「蓮の花」「ユリイカ」とシングル曲が続く。4曲目の「ナイロンの糸」はローランド・TR-808が使用されている。5曲目の「茶柱」は今作の収録曲の中でも特にミニマルな構成となっており、山口の歌、岡崎の弾くグラビアのNord Stage 2EX、札幌の蝉の声、そして札幌生まれのコントラバス奏者である瀬尾高志によるコントラバスの音で構成されている。6曲目の「ワンダーランド」はバンドとしては初めてシューゲイザーを取り入れた楽曲である。曲の冒頭と終盤に特に大きくノイズが入っているが、イントロの前の音は北海道の雪を踏む足音であり、終盤の大音量のホワイトノイズの中に紛れて聞こえる音は東京の街中で録った音であることが語られている。曲が始まってからおよそ34秒あたりで鳴るギターのサウンドは江島によるテイクが使用されている。また歌詞については「童貞・処女喪失」をテーマとしている。7曲目にはシングル曲の「さよならはエモーション」が収録され、8曲目の「834.194」はインスト曲となっている。9曲目、アルバム最後の曲である「セプテンバー -札幌 version-」はDISC 1の「セプテンバー -東京 version-」と同じ原曲を制作された当時に近いアレンジで仕上げられている。2つのバージョン共に歌は同じテイクを使用している。札幌 versionの最後の部分には懐かしさや朴訥さを演出する意図でNHKの時報などでも使用されている正弦波を加工した音が用いられている。

アートワーク

本作は"音楽ソフトのプロダクトとしての価値の拡張"をテーマとした商品の展開が行われ、アーティスト・デュオ「Nerhol(ネルホル)」の作品2点がジャケット・アートワークのメイン・ヴィジュアルとなっている。北海道の海と東京の海のそれぞれで撮影された大量の写真を積層し、それを彫り込んで制作された彫刻作品を改めて撮影した写真がジャケットとなっている。それぞれ青を基調とした面と黄色を基調とした面があるが、バンドとしてはどちらが表でどちらが裏であるかという設定はしていない。ただしレーベルから販売する際のプロモーションの関係で、青を基調とした面のほうが便宜上の表として扱われている。歌詞カードのブックレットはこの作品2点の別角度から撮影された写真と文字のみというミニマルなデザインとなっている。また今作はフィジカルでの販売において通常盤と完全限定生産盤が展開されているが、ジャケットに使用されている写真は共通となっている。

今作の歌詞カードではクレジット表記の欄においてバンドメンバーの後ろにギターやドラムといった担当楽器が具体的に表記されていない。このことについて岩寺・草刈は、山口が作った原曲のアレンジを他のメンバー4人で進める際に、一人につき一つの楽器のみを担当することにこだわらずこれまで以上に4人があらゆる要素に各々の意見を反映させながらアルバムを完成させたためであると語っている。

評価

批評

ロッキング・オンの小川智宏は、本作は「何度聴いても発見がある」といい、「今まで一枚の絵として見ていたものが、実は奥行きも高さも持った立体像であったことに気づくようなアルバム」と評した。「時間と空間の移ろいの中で変化し続ける音楽的有機体としてのサカナクションの全体像を、サカナクション自身が初めて具体化して提示するアルバム」とも語った。Real Soundの森朋之は、DISC-1には洗練されたダンサブルな楽曲が、DISC-2にはサカナクションの深遠な精神性が堪能できる楽曲が収録されていると指摘し、前作以降のバンドのストーリーを一大叙事詩に発展させた大作と評した。批評家のimdkmは、本作を「バンド結成の地である札幌と現在活動の拠点とする東京というふたつの時代/都市を対比させたコンセプトが貫かれた一作」と評価。「AORやシティポップを参照しつつ、洗練された"洋楽"的ポップスへと向かうのでなく、いなたさをためらいなくポップに提示する手際」がサカナクションらしいとした。また、本作は「コンセプトアルバムとしてきわめて周到に、整合性のあるつくりになっている」が、「モス」や「忘れられないの」といった新曲が自ずと放っている魅力に対して、「これらのコンセプトはいささか蛇足だ」と語った。

雑誌『MUSICA』では2019年7月号における「Disc of the Month」の国内盤として今作を選出した。ここに記された批評の一つとして、小野島大は「収録曲全体の半数以上がシングルとして既にリリースされているにもかかわらず明確なテーマ・ストーリーをもった1つのアルバムとして見事に纏まっている」と評しており、特にDISC 2後半の「ワンダーランド」「さよならはエモーション」「834.194(インスト曲)」の流れを例に取りシングル曲もアルバムに組み込まれることで新たな意味をもつようになったと語っている。また同誌の2020年1月号における2019年の音楽シーンを振り返る特集「THE YEAR IN MUSIC 2019」において鹿野淳と編集長の有泉智子はONE OK ROCKが2019年2月13日にリリースした『Eye of the Storm』、SEKAI NO OWARIが同月27日に同時リリースした『Eye』『Lip』と合わせて批評をしている。3バンドが2010年の初頭にその後大きく注目されるきっかけとなったシングルをリリースしたことをふまえ、2010年代の音楽シーンを象徴する立ち位置にまで昇りつめたバンドによるここ10年の時代を総括するアルバムであると評している。

また本作は、『ミュージックマガジン』2021年3月号掲載の「特集 [決定版] 2010年代の邦楽アルバム・ベスト100」にて、第90位に選ばれている。

受容とチャート成績

オリコンの調査によると、『834.194』は2019年6月19日にフィジカルとしてリリースされ初日に推定4万4284枚を売り上げデイリーランキングで2位を獲得した後、発売初週で推定8万1261枚を売り上げ2019年7月1日付の週間チャートランキングでも2位を記録した。同じ週にオリコン週間デジタルアルバムランキングではダウンロード数11123を記録し1位、週間ROCKアルバムランキングにおいても1位、そしてフィジカルでの売り上げとストリーミング再生数・ダウンロード数を合計したオリコン週間合算アルバムランキングでは2位を獲得した。また週間アルバムランキングでのチャートイン2週目(2019年6月第4週)には推定1万4710枚を売り上げ9位を記録しトップ10を維持した。その後8月第1週には34位にまで順位を下げたものの、8月第2週および第3週で若干の回復を見せている。また、同年6月分のオリコンアルバム月間チャートでは4位、月間ROCKアルバムランキングでは1位、2019年のオリコンアルバム年間ランキングでは29位を記録した。

Billboard JAPANのチャートのうち、『Top Albums Sales』では、2019年7月1日付のチャートで全国推定売上枚数8万2500を記録し2位でチャートデビューした。この週は『Hot Albums』でも2位でチャートデビューし、ダウンロード数を計測する『Download Albums』ではオリコンデジタルアルバムランキングと同様に1位を獲得した。またこの『Download Albums』ランキングにおいても8月19日付のチャートで15位を記録した後、9月9日付のチャートで9位にまで再び順位を上げている。このようなロングセールスを記録したことについてBillboard JAPANの栗本斉はリード曲「忘れられないの」での話題作りがアルバムへの注目を集めた大きな要因であると分析している。2019年の『Top Albums Sales』年間ランキングでは25位、『Hot Albums』年間ランキングでは17位、『Download Albums』年間ランキングでは16位を記録した。

TSUTAYAの2019年度年間レンタルCDランキングのアルバム部門では19位、タワーレコードが2019年12月2日に発表した「2019 ベストセラーズ」邦楽アルバムTOP20では9位、HMVが2019年11月29日に発表した年間ランキング「HMV BEST OF 2019」では16位、配信サイトmoraの2019年年間人気アルバムランキングでは15位、レコチョクの年間ランキング2019ではアルバムランキングにおいて47位にランクインした。またこれを踏まえレコチョクにおける同年のアーティストランキングではサカナクションが50位にランクインしている。

日本レコード協会によるゴールドディスク認定では、10万枚以上フィジカルとして出荷されたとして、2019年6月に認定を受けている。

受賞

収録曲

本作はCD2枚組でともに9曲ずつ、合計18曲が収録されている。両ディスクとも8曲目にインスト曲またはインスト曲に近い形にアレンジされた楽曲が、9曲目には山口と岩寺が所属していたサカナクションの前身バンド「ダッチマン」時代の楽曲『セプテンバー』をリアレンジした楽曲が収録されている。リード曲はDISC 1の1曲目「忘れられないの」。

ツアー・関連する公演

2019年3月7日にアルバム発売が発表された当時は、2019年のツアー中にアルバムが発売される予定だったため、同ツアーは「アルバムを聴かずに観る公演」と「聴いてから観る公演」の両方を体験できる特徴があることを山口は語っていた。しかし、発売日は延期となったため2019年のツアーは結局すべての公演が「アルバムを聴かずに観るライブ」となったが、2020年に新たなアルバムツアーが開催されている。

SAKANAQUARIUM2019 "834.194" 6.1ch Sound Around Arena Session

本作のタイトルを冠したツアー「SAKANAQUARIUM2019 "834.194" 6.1ch Sound Around Arena Session」が、2019年4月6日から6月14日にかけて開催された。全国7都市のアリーナで計10公演が行われ、300発以上のスピーカーによる6.1chサラウンド音響が採用されるなど サカナクションとしては史上最大規模のツアーとなった。

追加公演と中国へのメディア展開

4月27日に中国での追加公演が発表され、この公演のプロモーションに合わせてweiboのバンド公式アカウントが開設された。6月28日に上海のModern Sky LAB、6月30日に深圳のA8 Liveで開催され、これらの2公演はアルバム発売後に開催された。なおこの2公演はサラウンド音響ではなく一般的なステレオ音響での公演であるため、ツアータイトルは「SAKANAQUARIUM2019 "834.194"」となっており「6.1ch Sound Around Arena Session」の部分はない。

テレビ放送

日本国内でのツアー千秋楽となった愛知公演の様子がWOWOWライブにて2019年9月22日に放送された。番組では山口が本ツアーを振り返るインタビューも合わせて放送された。

アリーナ・ツアーの映像作品化

2019年のアリーナツアー千秋楽である愛知公演の様子を収録した映像作品が「SAKANAQUARIUM 2019 "834.194" 6.1ch Sound Around Arena Session -LIVE at PORTMESSE NAGOYA 2019.06.14-」というタイトルで2020年1月15日にNF Recordsからリリースされた。本作は完全生産限定盤(Blu-ray/DVD)と通常盤(Blu-ray/DVD)の合計4形態でリリースされた。Blu-rayでは完全生産限定盤・通常版ともにライブ本編の音声を2chステレオとドルビーアトモスの2種類で収録している。

本作の発売日の前後にはサウンド&レコーディング・マガジン主催のイベントが御茶ノ水Rittor Baseにて2度開催され、江島・草刈や制作に関わったレコーディングエンジニアの浦本雅史が登壇した。さらにバンドの映像作品では本作に初めて採用されたドルビーアトモス音響を体験できるブースが秋葉原のONKYO BASEで2020年2月1日から24日まで開設された。

今作の映像編集およびパッケージデザインはツアーの演出映像を制作した田中祐介が引き続き担当した。パッケージのデザインは今作のリリース直後にスタートする『834.194』の2度目のリリース・ツアー「SAKANAQUARIUM2020 "834.194 光"」のテーマである「834.194を振り返る」という概念を表現している。

SAKANAQUARIUM2020 "834.194 光"

本作をひっさげたアルバムツアーとなる「SAKANAQUARIUM2020 "834.194 光"」が2020年1月18日から2月26日にかけて開催された。全国のアリーナで開催された2019年のツアーに対して、こちらは全国のホールを回るツアーとなっている。ツアーのコンセプトである「光」は2019年にあいりトリエンナーレ2019の音楽プログラムの一つとしてサカナクションが開催した音楽プログラム「暗闇 KURAYAMI」と対となっている。2019年8月24日に開催が発表された当初は4月12日までの12会場23公演を開催する予定であったが、新型コロナウイルスの感染拡大を受け石川公演以降の開催を延期を余儀なくされた。その後、再開に向け数度の延期を重ねたものの、最終的に23公演中後半の11公演は開催中止となった。

追加公演「SPEAKER +」

「SAKANAQUARIUM2020 "834.194 光"」ツアーの追加公演が2019年12月27日に発表され、特設サイトのリンクが公開された。当初は5月1日・5月2日にぴあアリーナMM、5月8日に大阪城ホールで開催される予定であったが、本ツアーのホール公演と同じく新型コロナウイルス感染症の感染拡大による影響で開催見合わせが発表された。以降バンドは振替日程の調整を続けてきたものの、当面の開催は不可能と判断したため2020年5月1日20時ごろに全3公演の中止が発表された。サカナクションのライブツアーで全公演が中止になった企画はこれが初めてである。

ツアー開催延期・中止とその対応について

2019年末から世界各地で流行している新型コロナウイルス感染症の影響が最初に出たのは2020年2月18日、19日の愛知公演で、本ツアーの公式グッズの会場への到着が中国での生産ライン・物流停止の影響を受け先行販売開始までに間に合わない事態が発生した。その後、当初は十分な感染対策を行なった上で予定通り開催する方針であったが、2月26日に政府からイベントの開催の必要性を検討するよう要請されたことを受け、当日中に石川・広島・神戸での6公演の延期が発表された。ツアーの休止が決定して以降、振り替え日程の発表やチケットの再販売を行いツアー再開に向けた対応を進めた他、様々な規模のライブ代替企画を企画した。バンドがこれまでにリリースしたライブ映像作品のYouTube上での配信や、山口によるSNSを用いたファンや他のクリエイターとの交流活動などが行われる傍ら7月から10月にかけてツアーを再開できるよう調整していたものの、夏になっても感染症の影響がおさまることはなく最終的には全ての公演が中止となった。なお有観客のツアー再開中止が発表された後の2020年8月15日と16日には、バンド史上初となる無観客のライブストリーミング公演『SAKANAQUARIUM 光 ONLINE』が配信された。

またサカナクションはコロナ禍でライブが開催できなくなったことにより収入が減ったスタッフへの支援活動も積極的に行った。2020年3月にサカナクションは「NICE ACTION」と呼ばれるファンからの寄付金を受け入れるシステムを開始した他、中止となったアリーナ公演で販売予定だったライブグッズや新たに制作した映像作品集『LIVE FISH -COMPLETE BOX-』の売り上げを「チームサカナクション」の支援金として使用する取り組みも行われた。

クレジット

サカナクション

過去のシングルCDのライナーノーツなどによる。

  • 山口一郎 - ギター、ボーカル、コーラス
  • 岩寺基晴 - ギター、ベース、コーラス
  • 草刈愛美 - ベース、コーラス
  • 岡崎英美 - キーボード、コーラス
  • 江島啓一 - ドラム、ギター、コーラス

レコーディング

特記ない限りCDのライナーノーツによる。

忘れられないの
Cooperative Synthesizer & Percussion Arrangement - 青山翔太郎
ヴァイオリン - 山本理紗、須原杏
ヴィオラ - 村田泰子
チェロ - 遠藤益民
マッチとピーナッツ
ヴァイオリン - 山本理紗、須原杏
ヴィオラ - 村田泰子
チェロ - 遠藤益民
コーラス - 世武裕子
新宝島
Cooperative Keyboard Arrangement - 冨田謙
モス
Cooperative Synthesizer & Percussion Arrangement - 青山翔太郎
パーカッション - 出田寿一
トランペット - タブゾンビ
テナー & バリトンサクソフォーン - 栗原健
トロンボーン - 滝本尚史
ナイロンの糸
ユーフォニアム & フリューゲルホルン: 権藤知彦
茶柱
コントラバス - 瀬尾高志
ワンダーランド
フィールド・レコーディング - Yasuhito Izutsu
  • Record & Mixed - Aobadai Studio & Soi Studio
  • Assistant Engineer - Masayuki Yoshii(Aobadai Studio), Tetsuro Sawamoto(Aobadai Studio), Miyuki Nakamura(Aobadai Studio), Konoka Munekata(Aobadai Studio)
  • Instrumental Technician - Ryoji Tamura(MOBY DICK), KazuyaTakeda(MOBY DICK), Kentaro Seki(TEAM ACTIVE)
  • Drum Technician - Yoshio Arimatsu
  • Mastered - Kotaro Kojima(FLAIR)

CDのアートワーク

  • カバーアートワーク - Nerhol
  • アートディレクション & デザイン - 田中義久
  • 水中写真撮影 - 西塁(NF)
  • アートワーク撮影 - Hiroshi Manaka

ミュージック・ビデオのクレジット

ナイロンの糸
忘れられないの・モス

アリーナー・ツアーのクレジット

特記ない限りライブ映像内のクレジットによる。

  • プロデューサー - 野村達矢(NF Records/ヒップランドミュージック)
  • アーティストマネージャー - 熊木勇人、関口香菜(NF Records/ヒップランドミュージック)
ステージ運営
  • 舞台監督 - 増田崇(ヒップランドミュージック)
  • サラウンド・ラウンド・ミキサー & マニピュレーター - 浦本雅史(Soi Co.,Ltd)
  • 音響(FOH) - 佐々木幸雄
  • 音響システムデザイン - 武井一雄
  • 照明 - 平山和弘(BAGS GROOVE)
演出用映像
  • 映像監督 - 田中裕介(CAVIAR)
  • 出演 - 琉花(etrenne)、アオイヤマダ、水島さとり
  • 振付とダンサー - air:man
ステージ演出
  • スタイリスト - 三田真一(KiKi inc.)
  • ヘア&メイクアップ・アーティスト - 根本亜沙美
  • リキッド・ライティング - 助川貞義(OVERHEADS)
  • ビジュアル・プログラミング&CGデザイン - Rhizomatiks
  • 広告・グッズデザイン - 平林奈緒美
映像作品化
  • 撮影監督 - Shinya Yamada
  • ミキシング&マスタリングエンジニア - 浦本雅史(Soi Co.,Ltd)
  • 監督 - 田中裕介(CAVIAR)

チャートおよび認定と売り上げ

チャート

ゴールド等認定

解禁日と発売日一覧

脚注

注釈

出典

TOKYO FM『SCHOOL OF LOCK!』の放送後記

バンド公式・所属事務所・関係者による告知

CD・DVD・Blu-rayのチャートと売り上げ

参考文献


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