原型はハスラー・ホイットニーによる1938年の論文"Tensor products of Abelian groups."が初出である。
共通の体 K 上の二つの ベクトル空間 V, W のテンソル積 V ⊗KW(基礎の体 K が明らかな時には V ⊗ W とも書く)はふたたびベクトル空間を成す。ベクトル空間のテンソル積を繰り返して得られるテンソル空間は物理的なテンソルを数学的に定式化する。テンソル空間に種々の積を入れてさまざまな多重線型代数・クリフォード代数が定式化されるが、その基本となる演算がテンソル積である。
定義
基底を用いた定義
共通の体 F 上のベクトル空間 V, W に対して、V の基底 B = {ξ1, ξ2, …, ξn} および W の基底 B′ = {η1, η2, …, ηm} をとるとき、これらの直積 B × B′ が生成する nm-次元の自由ベクトル空間
を V と W との F 上のテンソル積と呼ぶ。V ⊗ W の元としての順序対 (ξi, ηj) は記号 "⊗" を用いて ξi ⊗ ηj と書くことにすれば、V × W の任意の元は適当な有限個のスカラー cij を用いて
の形の有限和に表される。これにより、任意のベクトル v ∈ V および w ∈ W のテンソル積 v ⊗ w が定義できる。実際、基底ベクトル ξ ∈ V と η ∈ W のテンソル積 ξ ⊗ η ∈ V ⊗ W は与えられているから、任意のベクトルの積はこれを双線型な仕方で拡張して得られる。すなわち
に対して、これらのテンソル積は
と定められる。ベクトルのテンソル積は以下の性質を満たす: ベクトル v, v′, v″ ∈ V および w, w′, w″ ∈ W とスカラー λ ∈ F に対して
すなわち、写像 ⊗: V × W → V ⊗ W; (v, w) ↦ v ⊗ w は F-双線型写像である。これらの性質は、テンソル積がベクトルの和に対して分配的であり、スカラー倍に対して結合的であるように捉えることができる(これらが「積」と呼ぶ由縁である)。
ベクトルのテンソル積は一般には可換でない。実際、V ≠ W のとき v ∈ V, w ∈ W に対して、それらのテンソル積は v ⊗ w ∈ V ⊗ W および w ⊗ v ∈ W ⊗ V で属する空間自体が異なる。また V = W のときでも v ⊗ w と w ⊗ v は一般には異なる。
商としての定義
一般に、体 K 上のベクトル空間 V, W が与えられたとき、それらのテンソル積 U = V ⊗ W は、デカルト積 V × W の生成する K-上の自由線型空間 F(V × W) の、
で与えられる同値関係 ∼ による商として定義することができる。これは F(V × W) における演算から誘導される演算によりベクトル空間を成す。言葉を変えれば、テンソル積空間 V ⊗ W は上記の同値関係に関する零ベクトルの属する同値類を N とするときの商線型空間 F(V × W)/N である。より具体的に書けば、部分空間 N は 適当な v1, v2 ∈ V, w1, w2 ∈ W, c ∈ K を用いて
(v1, w1) + (v2, w1) − (v1 + v2, w1),
(v1, w1) + (v1, w2) − (v1, w1 + w2),
c(v1, w1) − (cv1, w1), c(v1, w1) − (v1, cw1)
の何れかの形に書ける F(V × W) の元全体から生成される。商を取れば N の元は零ベクトルに写されるから、v ⊗ w := (v, w) mod N と書けば、この場合もやはり
が満足されることがわかる。
記法について
テンソル積空間 V ⊗ W の元はしばしばテンソルと呼ばれる(ただし、テンソルという用語はこれと関連のあるさまざまな概念に対しても用いられる)。v ∈ V と w ∈ W に対し、(v, w) の属する同値類を v ⊗ w と書いて v と w のテンソル積と呼ぶ。物理学や工学では、記号 "⊗" を二項積(直積)に対して用いるが、得られる二項積 v ⊗ w は同値類としての v ⊗ w を表現する標準的な方法の一つである。V ⊗ W の元のうち v ⊗ w の形に書けるものは、基本テンソルあるいは単純テンソルと呼ばれる。一般に、テンソル積空間の元は単純テンソルだけでなく、それらの有限線型結合も含まれる。例えば、v1, v2 が線型独立かつ w1, w2 が線型独立のとき v1 ⊗ w1 + v2 ⊗ w2 は単純テンソルに書くことはできない。テンソル積空間の元に対し、それを書き表すのに必要な単純テンソルの数を、テンソルの階数という(テンソルの次数と混同してはならない)。線型写像や行列を (1,1)-型テンソルと看做したときの、テンソルの階数は行列の階数の概念に一致する。
双線型写像 φ: V × W → V ⊗ W が存在して、任意のベクトル空間 Z と双線型写像 h: V × W → Z が与えられるとき、h = ~h ∘ φ を満足する線型写像 ~h: V ⊗ W → Z が一意に存在する。
この意味において、φ は V × W から作られる最も一般の双線型写像になっている。特に、これにより(一意的に定義される)テンソル積を持つ任意の空間の集まりが対称モノイド圏の例となることが導かれる。テンソル積の一意性は、上記の性質を満たす任意の双線型写像 φ′: V × W → V ⊗′ W に対し、同型写像 k: V ⊗ W → V ⊗′ W が存在して φ′ = k ∘ φ を満足することを言う。
が存在すること。左辺から右辺への写像を構成するには、普遍性により、適当な双線型写像 V × W → W ⊗ V を与えることが十分である。ここでは、(v, w) を w ⊗ v に写す写像を与えればよい。反対方向の写像も同様に定義して、それら二つの線型写像 V ⊗ W → W ⊗ V と W ⊗ V → V ⊗ W が互いに他方の逆写像となっていることを確認して証明は完成する。
線型写像 S, T がともに単射、全射または連続ならば、テンソル積 S ⊗ T もそれぞれ単射、全射または連続となる。
現れるベクトル空間にそれぞれ基底をとれば、線型写像 S, T はそれぞれ行列で表現され、さらにテンソル積 S ⊗ T を表現する行列は、S, T を表す行列のクロネッカー積で与えられる。具体的に書けば、線型写像 S および T がそれぞれ行列 A = (aij) および B で表されるとき、S ⊗ T は区分行列
Bourbaki, Nicolas (1989). Elements of mathematics, Algebra I. Springer-Verlag. ISBN 3-540-64243-9
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“Bibliography on the nonabelian tensor product of groups”. 2015年6月10日閲覧。
外部リンク
Weisstein, Eric W. "Tensor Product". mathworld.wolfram.com (英語). / Rowland, Todd. "Vector Space Tensor Product". mathworld.wolfram.com (英語).
tensor product in nLab
tensor product - PlanetMath.(英語)
Definition:Tensor Product at ProofWiki
Onishchik, A.L. (2001), “Tensor product”, in Hazewinkel, Michiel, Encyclopedia of Mathematics, Springer, ISBN 978-1-55608-010-4, https://www.encyclopediaofmath.org/index.php?title=Tensor_product